OVA「HELLSING」DVD7巻のピアノ曲について

 

作曲家・松尾早人さんの作品の1つに「HELLSING」というOVAがあります。このDVDの7巻に大きな鎌を振り回す敵が出てきて味方側の女の子の腕を切り落とすというシーンがあるんですが、その腕を切り落とした瞬間から荒れ狂う闇夜の海のようなものすごいピアノソロが流れるんです。それはもう、思わず「お願いっ、セリフや効果音よりももっとこのピアノの音を大きくして聴かせて!」叫びたくなるくらい、一瞬にして惹き込まれてしまう旋律です。

で、この曲について松尾さんから「この曲のために松田さんが録音の何日も前から練習してくれたんだよ」というお話を聞かせてもらったので、さっそく当時の松田さんの日記を拝見しました。そしたら、当時の日記にも楽譜を受け取ったときの心境や練習の様子をかなり詳しく書いてくださってるんですが、ここは更にもう少し踏み込んでお話を聞きたいと思い、コメントをお願いしてみました。

すると、「もう1年も経ってて忘れてしまってるところもあるので、当時の日記を引用してるところもあるけど…」と言いつつも快く引き受けてくださいました。ほんと、大感激です。では、その松田さんの素敵なコメントをどうぞ(^.^)b

 

 

 

 

松尾早人さんが音楽を書かれた「HELLSING」の録音(2009年10月23日(金)) は、まず担当のインスペクターの方から電話で「松尾さんの書きで録音があるのですが、(ピアノの)譜面が難しいので、事前にパソコンに譜面と音資料を送ります!」と連絡がありました。2009年の10月の事です。

譜面と音資料は、10月19日(月)にパソコンに送られて来て、その日の日中は、(僕の方で)別件でリハーサルの仕事があり、夕方帰宅をしてからパソコンを立ち上げて音資料を聴き、譜面をプリントアウトする事にしました。
譜面を確認してまず感じた事は、これは難しい!と言う事でした。

 

譜面は2曲あって、内1曲は、その多くの小節で、16分音符がところ狭しと書き込まれていて、部分的に16分音符の6連もあります。そして広範囲に渡る分散和音(アルペジオ)もあって、これは、それ相当に練習をしなければ僕には太刀打ち出来ない、と言うのがまず第一印象でした。

すぐに譜読みを始めて、その後夕食の為に少し中断。夕食を食べ終えて、再び譜読みを始めます。
その日の僕の「日記」には「演奏の目処が経つまでは、心が落ち着かないでしょう!とにかく頑張らなくては!」と書かれてありました。

 

翌20日(火)は、午後から「HELLSING」の曲を練習。2曲の内、1曲の目処は経ちましたが、難しい方の1曲は、もう少し弾き込んで慣れる必要がありそうです。

21日(水)は、日中は別件でリハーサルの仕事があり、やはり帰宅後に「HELLSING」の曲を練習。

22日(木)は、日中は都内でライブの仕事があり、やはり帰宅後に「HELLSING」の曲を練習。いよいよ明日、録音が行われます!

23日(金)の録音日は、出かける前の午前中に、「HELLSING」の楽曲の練習を少しやって、午前11時頃には自宅を出発。録音が始まる午後1時よりも30分程早くビクター302スタジオに到着。

スタジオの中央には、スタンウエイのフルコンサ−トピアノがセッティングされていて、通常の録音では、ピアノはブースの中にあり、そこで弾いて録音される事が多いのですが、こうしてスタジオの中央にセッティングされていると言う事は、広い部屋を利用して響き具合を良くして録音をすると言う事だと思います。関係者の方々の意気込みも感じられる今日の録音と言う事ですね。

松尾早人さんの書きは、これまでにも何度かやらせて頂いていますが、その精緻で美しい書きを実感させて頂いていて、今回の録音はその中でも一番難しい譜面だと思います。武者震いと言うか、僕もいつも以上に気合いを入れて、演奏/録音に臨みました。

まず録音に際して松尾さんに、僕が弾く2曲の内容を確認させて頂くと「HELLSING」と言う吸血鬼のアニメーションとの事。

午後1時になり関係者の方がいらっしゃっていよいよ録音が始まりました。
録音は難しい方の曲(M39)から始まり、先程の松尾さんの説明だと「人間が吸血鬼に変身をする狂気を表現しています」との事で、確かに自宅で練習をしながら、不協和な和音や重苦しい雰囲気、それに強烈なパワーを感じさせる曲になっていると感じていました。そんな事を思い描きながらとにかく演奏に集中をします!

録音が始まると、やはり一度の演奏では録音出来るような楽曲ではなく、録音前に松尾さんと打ち合わせをしていたように、録音を始めて行って、演奏上のミスや納得の行かないところがあると、そこで一旦録音を止めて貰い、今度はそこから新たに録音をし直すやり方でやって行きました。

そして録音が始まり、1曲目の後半になって来たところで、体から汗が吹き出し始めるのが分かって来て、「このままだと(疲れてしまうので)長い時間の演奏は無理かも知れない」と内心で感じ始めたのです。
実際この事は、今でもよく憶えていて、この「HELLSING」の録音では、松尾さんが書いた「HELLSING」の音楽の、強烈な印象以外の事では、一番鮮烈に残っている事でもあります。実際にこのような事は、これまでの他の録音では、殆ど感じた事がありませんでした。

と言う事で、とにかく録音時間が長くならないように、最大限に演奏に集中をして、最小限の時間内で録音を終える事が出来るように心掛けました。

その甲斐もあってか、1曲目のより難しい方の曲は、約40分程度で無事に終了。
もう1曲の録音は、歌のピアノ伴奏のようで、歌手の方がいらしゃるまで、暫くの間休憩に入りました。

そして歌手の白石まるみさんが登場されて、2曲目(M41 Epilogu)の録音が始まりました。
本番の録音に入る前に、白石さんが歌のメロディーを確かめる意味で何度か僕がピアノ伴奏を弾いて、楽曲の音やメロディーを確かめるところから始めました。本番が始まると、幾つかのテイクを重ねてベーシックなテイクを録った後、最後は後半部分をやり直して、こちらの方は約30分程度で終了です。

今日は、1曲目の曲が難しくて大変でしたが、自宅で練習を重ねた甲斐もあり、とても弾き甲斐のある面白い内容の録音でもあったと思いました。このような内容の録音が無事に終わると、本当に無事に終わって何よりと言う気持ちが強くて、より一層気分が良くなると言うものです。

そしてこうして今回「HELLSING」の録音に際してのコメントを書いていて気が付いたのですが、いつもなら譜面に(自分でより分かりやすいように)色々と書きこんだりしているはずなのに、今、自分の手元に残っている譜面(プリントアウトした譜面)には、殆ど何も書き込みがないのです。

実際に行われたスタジオでの録音では、写譜屋さんが書いた譜面を観て演奏/録音をしたと記憶しているので、そちらの譜面に色々と書き込んだのでしょうか? それとも松尾さんが書かれたあまりの譜面の難しさに、僕の方で圧倒されてしまい、書き込みをしなかったのでしょうか? この点に付いては、ちょっと謎ですね!(笑)

(このコメントを書いてしばらくしてから思ったのですが、僕の場合、譜面に色々と書き込み作業は、当日スタジオに入ってから譜面を貰って譜読みを始める場合が、どうも多いようです。事前に自宅等で譜読み(練習)が出来る場合には、じっくりと譜読みが出来るので、あえて書き込む必要がないからだと思われます。)

それから1曲目の難しい方の楽曲で、僕が一番難しいと感じた箇所は、譜面で言うと、リハーサルマークDの4小節前から1小節前に掛けての4小節間の右手のフレーズです。オクターブの中に、内声に1音付け加えられているパッセージですが、僕は手が小さい方なので、このようなフレーズは少しばかり難儀ではありました。でも実際の録音では、この部分に付いては割とスムーズに弾けたので、良かったと思っています。

他にリハーサルマークCの8分の5拍子からの4小節間では、僕はストラビンスキーの「春の祭典」(あのリズムの印象的な部分)をイメージしながら演奏に臨んだ事を付け加えておきます。

そしてこの松尾早人さんの「HELLSING」の曲を弾く機会に恵まれて、僕のそれまでの松尾さんに対しての「精緻で美しい」と言うイメージに、更に、強烈でパワフル、そして良い意味で野蛮で、過激な程に想像力を掻き立ててくれるような音楽を発信していると感じました。そして同時にこの「HELLSING」の音楽でも、やはり「精緻」な書きは、遺憾なく発揮されていたと思います。

 

 

 2010年11月13日 
        松 田 真 人

 

 

 

 

いかがでしたか?
松田さんがこの曲を受け取ってから録音当日までのこと…どう向き合ってきたかってことだけでなく、その曲への思い、そして松尾さんへの思いもとてもよく伝わってきたんではないでしょうか?

実は松田さん。私がこのコメントをお願いしたことで楽譜を探してくださり、そして「弾けば色々と思い出すと思うから…」と、お忙しい中を縫って、またご自宅で何度か弾いてくださったそうなんですよ〜。ほんと、ありがたい…いやもう、そんな言葉ではとても表しきれない感謝の気持ちと感激でいっぱいです。

また、このページを正式にアップする前に松尾さんに見てもらったところ「松田さんも"体力的にもキツい"と書かれてますが、そりゃもうピアノが壊れそうなくらいの弾き方でした。動画を撮っておけば良かったと思ったくらいです。」なんてコメントもいただけました。はぁ〜これは見てみたかったですよね〜!

「HELLSING」の映像自体は思わず目を覆ってしまう残虐なシーンが多いんですが(しかもこの7巻が特に…)、残念ながらまだこの曲が収録されたサントラが出てないので、是非DVDでこの松田さんの演奏を、そして松尾さんの精微で美しく、強烈でパワフルな音楽を聴いていただきたいと思いますo(^-^)o

 

 

 

 

松田真人さん(1956年2月25日生まれ)


お母さんの勧めで5歳7ヶ月ごろからオルガンを、その1年後からはピアノを習われます。小学生のころから流行歌に魅せられ、中学生のときに洋楽を聴いたことがキッカケで中学生から高校生にかけてはキング・クリムゾンやエルトン・ジョンなどの影響をかなり受けられたようです。

そして国立音楽大学教育音楽学科第1類に進まれてからは特にクラシック音楽の作曲に心血を注がれ、卒業後に都立志村高校の音楽の先生となられたものの1年で退職され、因幡晃さんのツアーに参加されたことを皮切りにプロのミュージシャンとなられます。

それからは来生たかおさん・安全地帯・谷村新司さん・辛島美登里さんなどのステージをサポートされる傍らでスタジオのお仕事もされているという、ほんとに素晴らしいミュージシャンです。

当HPの目線からお話すると、アニメ映画では「ワンピース」「ポケットモンスター」「犬夜叉 鏡の中の夢幻城」など、実写映画では「黄泉がえり」「タイヨウの歌」「アキレスと亀」など、そしてテレビアニメでは「ツバサクロニクル」「ヒカルの碁」などの録音に参加されてます。

もし松田さんのお名前を意識してなくても、サントラを聴いてて「ああ、この演奏は何だかす〜っと耳に馴染むなあ。心に染みてくるなあ」と感じたら、実はその多くが松田さんの演奏だったと言っても過言ではないと思います。それほど素敵で、そして松尾早人さんが絶対的な信頼と尊敬の念を寄せて止まない方なのです(*^^*)

詳しくは松田さんのHPをご覧くださいね(^.^)b → 松田真人オフィシャルウェブサイト

 

 

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