〜音響監督・三間雅文さんに聞く〜

 

 

アニメ「ドラゴンクエスト」「ポケットモンスター」「頭文字D」「鋼の錬金術師」「マクロスF」「進撃の巨人」などなど、誰もが一度は耳にしたことのあるようなタイトルの作品を、音楽面または演技面で支えてこられた音響監督・三間雅文さん。いつもツイッターで現場での貴重なエピソードや作品への熱い思いを語ってくださってますが、もっと色んなことをお聞きしてみたいと思ってダメ元でインタビューのお願いをしてみました。

すると、まさかの快諾…この予想外の一報には感激するやら恐れおののくやらで私の心中は大変でしたが、当日はインタビューの申し込みをするに当たって背中を押してくださった作曲の宮崎慎二さんにも同行していただき、こうして奇跡のインタビューが実現しました。

以下は当日の様子をできるだけそのまま感じていただきたいと思い、雑談や相槌も含めた記事に仕上げてあります。第一線でご活躍中の三間さんだからこそ語れる劇伴のこと、声優さんのこと、そして今の、これからのアニメのこと…どうぞ、お楽しみくださいo(*^^*)o

 

☆三間さんは「」、宮崎さんは「」、私は「」で表記します☆

 

 

 

〜音響監督になるまでのこと〜

 

ゆ:では、まず…文化放送でバイトをしたことがキッカケでラジオドラマ制作に興味を持ったというお話がありますが、具体的にはどんなバイトをしてたんですか?

三:バイトって言っていいのか分からないけど…高校生の視聴者参加番組があって、それに応募したのがそもそもの始まりなんですよ。で、面接に受かってやってたら、そのうちディレクターに可愛がらるようになったんです。そして、ある日「仕事を手伝わない?」って言われて、深夜番組とかのお手伝いをさせていただくようになったんですね。そこからラジオに興味を持って、深夜のラジオドラマとか聴いてて「音だけで人の心を揺さぶるんだ…すごいなあ。やりたい!」って思って、大学生のころには自分でも作り始めてました。どうしてもその世界に入りたくて。

そしたら文化放送のディレクターに「放送局ってだいたい学校選考になっちゃうから、東大・慶応・早稲田の3校しかダメだよ」って言われたんですよ。で、僕は明大付属高校だったんで「入ってねえじゃん!」ってところから「じゃあ、どこか開拓しなきゃ!」って思って、FMを思いついたんですね。でも、民放の大手のほかにも何社か受けたんですが、いまいち引っかからなくて… 。

ゆ:いまも学校選考という考えは一部にあるようですが、そのころは特にそうした色が強かったんでしょうねえ。ところで、大学でのご専門は何だったんですか?

三:とりあえず機械を知っとけばいいと思って、工学部にいました。で、大学に通いながら文化放送にバイトに行ったりしてたんですね。

大学3年の頃、うちの親戚の明田川進さんが「うちの会社はラジオドラマやるよ」って言うから「ほんとっすか!?」って言って即答で入社させてもらいました。だから大学は中退(笑)

ゆ:あらま(笑)
では、小さいころはどんなお子さんでしたか?

三:父が浅草橋にある学校の校長だったんですけど、浅草橋ってオモチャ問屋なんですよ。つまり、父兄がみんなオモチャ屋さんなんですね。で、父が散歩してたら「先生、こんなプラモデルがあるんですよ♪」ってくれたらしいんです。父も律儀だから、もらったプラモをちゃんと組み立てるんです。で、戦艦ヤマトとか作って校長室に飾ってると、次の父兄が来て「先生、すごいヤマトですねえ!」って言いながら、今度はハーレー・ダビットソンのプラモが来ちゃって(笑)

で、学校で組み立てられなかった分は自宅にまで持って帰ってきてやってるんですよ。それを見て僕もプラモが好きになって、自分でも作るようになるんです。だから、細かいものを組み立てる、ものを作るっていうことは父に教えられたんです。

そうすると今度は作ることがどんどん楽しくなってきちゃって、父の一眼レフを出してはネジを全部はずして分解して、また組み立てるってことをやってましたね。そのとき何か部品が3つくらい残ってるんですけど、そ〜っと返しとくと父が「おい、これシャッターが切れないぞ?」とか言ってるんですよ(笑)そんな感じのいたずらはいっぱいやって、とにかく色んなものを分解しては組み立てるのが大好きでしたね。

ゆ:きっとすごく大事にされてたカメラでしょうに(笑)じゃあ、小さいころの夢としては職人さんになりたかったとか?

三:実は母も教員で、もう両親が「世の中がどうなっても公務員・教職員の給料は減らない」って豪語してて「絶対に先生にする」って感じだったので、自分の夢ってのはなかったですね。だから学校も両親の言う学校を受けて進んできたんで、高校生のときに行った文化放送で「わあ、やりたい!」って食いついちゃったんだと思います。

で、教員になるなら文系なんですが、大学で初めて自分で選んだ学校に行ったんですよね。思えば、ここが僕の反抗期だったと思います。とにかく親の思い通りにはならない、意地でも抜け出してやるって感じだったので、どんなにしんどくても絶対にブレーキはかからなかったです。前に向かって突き進むのみ。

ゆ:確かに学校の先生のお宅のお子さんって、学校の先生になってる方が多いですよね。まあ、親御さんとしても、大事な息子だからこそ安定した固い仕事を…って思ってたんでしょうねえ。

三:まあ、いまだって世の中がどんなに不景気になったって、教職員たちの給料は減ってないですもんね。でも、やっと自分のやりたいことが見つかったんで…。

ゆ:うんうん、安定って確かに大事なことだと思うんですが、やりたいことがあるってのも大事ですよね。

 

三:ところがですねえ、そうやって僕は教員が大嫌いでこの業界に入ってきたはずなのに、あるとき気づくんですよ。20人の役者さんを前に台本を持って「カット25だけど、ここはこうだよね」ってやってる自分に「これ教鞭じゃん」って(笑)

結局、DNAなのかなあ…。あれだけ嫌ってたのに、自分の状況にハッと気づいたときに何かが落ちたみたいな気持ちになって「これは運命なんだ。受け入れなきゃ」って思うようになりました。

教員も「先生」って言われるけど人の上に立つんじゃなくて、応援することで何か自分の中に喜びを見つけることだと思うんで、「ああ、やっぱり血を受け継いでるんだなあ」って思いましたね。

 

ゆ:あら、素敵なお話じゃないですか!
まあでも、当時はご両親とは違う生き方をしたくて、明田川さんのところに入って修行をされたわけですね。

三:そうなんです。
でも、ラジオドラマをやれるっていうので入ったのに、何か知らないけどアニメやってて、結局10年間ラジオドラマの仕事はありませんでした(笑)

ゆ:えぇ〜!

三:で、ラジオドラマって言いながらも、そのころはレコードだったんですよ。アニメの音源の6ミリテープを編集してレコード盤にするんです。みんなビデオなんか買えなかったから、映画で観たものを今度はレコードで音だけ聴くっていう、いま思うと不思議な時代でしたね。

だから絵の分からないところは途中でナレーションを挟んで、あとは映画の音楽やセリフをそのまま使ってるっていうサントラがありましたよ。サントラ版ドラマ編みたいなのが。

ゆ:へえ、そういうのがあったんですねえ。
でも、本来サントラって映像の中で流れていた音楽を聴くことで映像として見たものを追体験するためのものだと聞いたことがあるんで、これぞまさにサントラの原点って感じもしますね。

三:明田川さんはそのサントラ版ドラマ編みたいなのを「ラジオドラマ」って言ってたんですが、僕からすると「これはラジオドラマじゃないよ」なんて思ってました(笑)

で、明田川さんのところに行って10年くらいしたころに集英社さんからカセットブックとかCDブックってのを作りたいって話があって、それがまさにラジオドラマだったんですよ。

ゆ:じゃあ、それに関わられて…10年越しにやっと夢が叶ったって感じですね。

三:そうですね。やっと来た〜って感じで、嬉しかったですねえ。

 

テクノサウンドの外観、かわいすぎます(*゚▽゚*)

三間さんのお話では、通りがかりの外人さんは必ず写真を撮っていくそうですし、ときどき「何のお店ですか〜?」ってドアを開けてくる親子連れさんなんかもいるそうですよ(*^^*)

 

〜音響監督になってからのこと〜

 

:では、音響監督さんとしてデビューしてすぐのころのエピソード…たとえば失敗談だったり、こんな感動したことがあったなあとか、ありますか?

三:宮崎さんのような作曲の方はまた別かもしれませんが、僕らの世界には…僕の中には失敗か成功かってのはない気がしますね。それは相手が決めることな気がします。相手が喜んでくれたら成功だし、それが万人だともっと嬉しいし…うん、あんまり作品の成功ってところにこだわったことがないですね。

だから「妖怪ウォッチ」がヒットすれば「ああ、成功だったんだ」って思うけど、でもそれは自分1人だけの力ではないわけじゃないですか。そうすると自分の中での成功って、最後までないんじゃないかなあ。うん、だから面白いのかもしれませんね。それが覗きたくて。

僕の思う失敗というのは「コミュニケーション」なんで「あ、いま監督を不機嫌にさせちゃった」とか「自分の説明が悪くて、効果音や音楽のニュアンスが違う」というのは自分の中にありますよ。

ゆ:なるほど…。前に宮崎さんから「三間さんは人とコミュニケーションを取るのがすごく上手な人」って聞かせてもらったことがあるんですが、これはそうした三間さんだからこその言葉のような気もしますね。

では、先ほどの「失敗」の話と少し被りますが、現場で困ったなあ…大変だなあ…と思うのはどういうときですか?

三:それはもう毎日ですね(笑)余裕のある作業なんてこれっぽっちもないんで、困らないことなんてないですよ(笑)

僕の仕事は常に人間が相手なんで、絶対に自分の思い通りにはいかないじゃないですか…監督もプロデューサーも役者さんも作曲家さんも、みんな個性を持ってて、やりたいことがある人たちが集まって、そのド真ん中にいるのが僕ですよね。

「まあまあ、まあまあ、これは右ですから…」「いや、左だ!」「あ、じゃあ左に行ってから右に行きますか♪」って感じでやっていくんですよね。自分の気持ちは二の次で、でもそっとその中に自分を練り込んでいかなきゃいけないんで、ずっとストレスを感じてます。

ゆ:人が相手って、面白いし学ぶことも多いけど、やっぱり大変ですよねえ。特に人の数が増えれば増えるほど色んな考えや思いが集まって、私だったらもうどっちを向けばいいのか分からなくなります…。

三:とにかく相手を理解しないとできない。そこで反発しちゃうと我が強くなってしまって、まとまらないんで…そうやって相手を理解・納得することが大事ってのに気づいたのが10年くらい前ですよ。それまでは嫌いなものは嫌いって顔に出ちゃってて、相手にも好き嫌いの印象を与えてたと思いますねえ。

ゆ:なるほど。そうした気づきの時期があったわけですね。

 

〜作曲家さんと劇伴のこと〜

 

ゆ:では、人との関わり方というお話の流れでこの質問を…三間さんのところにお仕事のお話が来たときには、もう作曲家さんは決まってることが多いんですか?

三:いや、ケースバイケースですね。監督が「この作曲家じゃなきゃ嫌だ」ってこともあれば「三間さん、誰か推薦してください」ってのもあるし、レコード会社が入った瞬間に作曲家が決まってるってのもありますね。主題歌やエンディングもそうです。

ゆ:劇場版ポケモンの「ビクティニと黒き英雄ゼクロム」と「ビクティニと白き英雄レシラム」のレンタルDVDについてたオーディオコメンタリーの中で「作曲家さんによってメニューの出し方を変える」ってお話がありましたが、もし監督さんやレコード会社さんから上がってきた作曲家さんが三間さんのあまり知らない方だった場合はどうするんですか?

三:まずデモとプロフィールをもらいます。で、その人が何の楽器から入ってる人かを見て、音楽を聴いて「結構アーティスティックなものを書いてるんだな」とか「あ、弦から入った人なんだ」って感じで考えたりしますね。でも、もう自分の個性をしっかりと出して書いちゃってる有名な人には、あんまり楽器まで細かく書かずにイメージだけ伝えます。

作曲家さんの中には「○○のテーマみたいなものを」ってオーダーを出すと、その時点で「これは書けない」って言う人もいますね。だからメニューの中に「○○的なものを」なんて書くと、どんどん欠番が増えていくなんてこともありますよ(笑)でもまあ、その通りだとも思うしね。

宮:うん。補足すると、たとえば「ジョーズみたいな」とか「007みたいな」ってなると、どれだけそれに上手に似せたかってところしか評価されない場合が多いから、もうそれ以上のイメージが膨らんでこないんですよ。

ゆ:なるほどねえ…でも、そうした事情を知らない視聴者の中には「これパクリだろ」なんて思う人もいますよねえ。

三:まあ、パクリを狙うんだったらいいんです。そういう狙いがハッキリしてれば。作り手の方に「ここは狙いたい」って気持ちがあって「ジョーズみたいな」って言えば、作曲家さんの方も「ああ、ジョーズが欲しいんだな」って伝わるからいいと思うんですよ。それこそ、どれだけ似せるかってところに目的が行くので。

そうじゃなくて、たとえば「姿形は分からないけど、何かが近づいてくる」ってシーンにつけたい音楽に対して「姿は見えない。だけど足音は近づいてくる。彼の威圧感が近づいてくる…その心理描写」って書けばいいものを、一言で「ジョーズみたいな曲」って書いちゃうと、もう「ダーダン…ダーダン…」しか浮かばなくなっちゃうでしょ。それは作曲家さんの気持ちを思いやれてないってことになりますよね。書き方を変えないといけないってのは、そういうところですね。

ゆ:ここでも、いかに相手を理解するかっていうことが大事になってくるわけですね。ところで、作曲家さんの中には「ジョーズみたいな」って言われた方が作曲しやすいって人もいたりするんですかねえ?

三:ああ、いますね。ほんのちょっと「○○的な」って言ったらもう「ああ、わかる!わかる!」で話が通じちゃう人とかね(笑)ほんと、人によってそれぞれですね。

宮:でも、「わかる!わかる!」って言う人は、ちゃんとそれだけの引き出しがあって、イメージできる人がそう言えると思うんですよ。音響監督さんの言わんとしてる気持ちを汲み取ってね。

ゆ:なるほど…ただ「○○的な」だけで、それが狙いなのか、そういう状況の曲がほしいのかが分かるには、やっぱり経験と引き出しの数ですかねえ。 経験と言えば、三間さんは過去に「キャプテン翼J」を、いまは「黒子のバスケ」っていうスポーツアニメを担当されてますが、何かスポーツ系の部活をされたことはありますか?

三:いろいろやってましたねえ。飽きっぽいんで(笑)
中学で軟式テニスやって、高校で柔道やって、大学は放送部でしたけど、まずは腕立て伏せから始まるっていう体育会系でしたよ。

ゆ:えっ、放送部で!?

三:うん、腹筋を鍛えろってことでね。飲み会もバンバン飲まされて、吐きながら先輩たちと喋ってたのを覚えてますねえ。ま、昭和なんで上下関係も厳しかったし、そこでかなり大人社会を教えられてきましたね。

でも、何かに対して目的を持って挑んでやるのって、スポーツも文化系も同じだと思ってるので、過去のスポーツ経験がスポーツアニメの何かに生かされるということはないですね。

ゆ:確かに、何かに向かって頑張るときの気持ちに体育系も文化系もないですよね。愚問でした(^^ゞ

 

テクノサウンドの…さっきピカチューがいっぱいいたところのドアを開けてすぐのお部屋。

こうしてこれまで携わってこられた作品のグッズが綺麗に飾られてて、素敵でした。私はこの子たちに背後から支えてもらって、三間さんとお話させていただいたって感じです(^^ゞ

 

〜音楽の使い方とアニメ「鋼の錬金術師」について〜

 

ゆ:では、「ポケモン」や「妖怪ウォッチ」のような子ども向けアニメと、「進撃の巨人」「ガンダム00」のような全年齢もしくは大人向けアニメとで、音楽の使い方に何か意識の違いはありますか?

三:ああ、それね!
それは「鋼の錬金術師」のときに気をつけましたね。これって、どの範囲の年齢に向けてんだろうって思って…。で、あれは夕方の放送だったので「心には残しても傷は残さない」っていう選曲にしたんですね。たとえば痛いところや惨劇のところには優しい曲を流して、ちょっと客観視するって感じですね。やっぱり子ども向けのアニメには、こういう配慮も大事だと思ってるので…。

でも、「進撃の巨人」は深夜の放送だったんで「傷、残したろ!」「傷つけ、みんな一緒に傷つけ〜!」っていう選曲なんですよ(笑)だから痛いところに痛い曲を流すって感じですね。

ゆ:まさか、そんなふうに狙われてたとは(笑) 「進撃の巨人」は最初からほんと衝撃的なアニメでしたねえ。実は私は何の前情報もなく「ああ、何か新しいアニメが始まったんだ」って感じで、子どもと見始めたんですね。しかも、ごはん食べながら…。

三:あっはっはっはっは!おかあさんが食べられちゃった回を?(笑)

ゆ:そう(笑)で、子どもと3人で「(*_*;)」な顔になっちゃって「ちょ…やめようか…」って、箸を置いたんですよ。

三:あはは! やめるって、チャンネルを変えるんじゃなく、ごはんの方をやめたんだ(笑)

ゆ:そうですよぅ。 その衝撃の第1話からはもう毎週ハラハラしたり、ギョッとなりながらも、すごくのめりこんで最後まで見ました!

あ、「鋼の錬金術師」なんかは、水島監督版と入江監督版で作曲家さんが変わってますよね。だから出来上がってくる曲の雰囲気が違うのは当然だと思うんですが、映像としてはヒューズのお葬式のシーンまではほぼ同じ展開ですよね。なので、何かメニューの出し方に気をつけたこととかありましたか?

三:いや、作曲家さんに対しての変更であって、やってることはいつもと同じです。だからって前のメニューを持ってきて「じゃあ、これで」なんてことはやってません。やっぱり「前とは違ったことをやりたい」って思うので…キャストを変えた理由もそこにあります。

鋼はみんなが人生を歩んでいく作品だったでしょう。水島監督から入江監督になっても朴さんと釘宮さんは継続だったので、彼女たちはこの先の旅がどういうものか分かってるわけです。そんな気持ちで発っちゃダメだってことで、まずキャストを変えたんです。キャストを変えることで出会う人が変わるので、朴さんたちもたとえ同じ役でも気持ちが変わりますよね。

だから気持ちを変えるって意味では、音楽も変えていくのが楽しみですよね。塗り絵で同じものを2枚描いてくださいって、すごく結果が出にくいと思うんですよ。

ゆ:ほんと、そうですよね。元は同じ作品のはずなのに随分と雰囲気が違うなあと思って見てました。音楽面でも大島ミチルさんと千住明さんでだいぶカラーが違ったので、そこも興味深かったです。

三:そうですね。大島さんを追いかけちゃうと、千住さんに対しての評価が「大島さん比べ」になっちゃうじゃないですか。たとえば「がっかりした」とか、「大島さんより良かった」とか…。でも、そういうことじゃない気がして、新しいことをやろうと思ったんですね。

ゆ:はい。作曲家さんご本人から聞いたお話やファンブックなどでのコメントを見ても、この作品に対してそれぞれの解釈や思いがあって面白かったです。そういえば、大島さんがモスクワで千住さんがワルシャワと録ったオケも違ってて、その音色の違いもまた「同じ鋼なんだけど、これはまた新しい作品なんだなあ」という思いで聴いてました。

キャストの変更と言えば…CDドラマとテレビ放送とでキャストが変わることがありますが、あれは何故ですか?

三:作る人が違うから。
CDドラマやラジオドラマは僕が監督で原作者と相談しながら決めてやるんだけど、アニメになるとアニメの監督が入るんで、その意向が入ってくるわけね。あと、原作者からも「CDドラマのときはちょっとイメージが違ったから、アニメはこの人で」なんて話が出てくることもあって変わるんじゃないかなぁ 。

 

〜原作のあるアニメについて〜

 

ゆ:ところで、お仕事の話が来たときに、もし原作があったら原作から読みますか?

三:作品の世界観とか「ああ、このキャラはこんな性格でこんな立ち位置なんだ」ってことが分かるまで…だいたい最初の1〜2巻までは読んで、それ以降は読まないです。あえて。

ゆ:へえ、あえて?

三:うん、実は「キャプテン翼J」で失敗してるんです。僕、キャプテン翼はすごく面白くて、最後まで読んだんですよ。でも、アニメーションの世界ではどうしたって原作と変えたいってのがあるから、制作側が変えてくるわけですよ。そしたらその原作と違うってことに対して違和感を持って「これ、原作の方が面白かった」ってシナリオの方に納得できない自分がいて、そのときに「これ原作を読むの失敗だなあ」って思ったんです。

で、「えぇ〜!これ原作の方がいいセリフだから戻せばいいのに」ってなると、ライターを否定しちゃうことになりますよね。ライターは変えたくて書いてきてるのに、それを僕が戻せってのはおかしいことなので。だから現場でも声優さんたちには「原作を読むな」って言ったりしてますよ。

ゆ:ああ、それすごく分かります。
私の場合は、アニメでハマって原作を読むと特に違和感ないんですが、原作が先だとやっぱりときどき「何でこんな展開にするの!?」とか思ってましたもんねえ。
でも、何年か前に「原作があるものをアニメ化するときは、色んな人の色んな意見が集まるから原作通りにはいかない」ってのを聞いて、アニメならではの表現も楽しまないと…なんて思うようになりました。

 

ゆ:原作を読んでるときに、何となく「こんな感じの音楽がいいなあ」とか考えたりしてるんですか?

三:いや、さすがにその時点では音楽を意識しては読んでないですね(笑)

ゆ:じゃあ、アフレコしてるときにって感じですか?

三:いや、僕の場合は、選曲イメージしたあとにアフレコやってるんですよ。だから、たとえば役者さんが小声で「よし行くぞ!」って言ってるのに対して「ごめん。ここ音楽のキッカケだから、もっと強めに出てもらっていい?」っていうディレクションをしますね。

ゆ:ああ、それがこのまえツイッターに載せてた「黒子のバスケ」の台本の青い線ですね!

三:そうですね!

元のツイートはこちら

 

〜音楽メニューについて〜

 

ゆ:では、音楽の質問をあと1つ…メニューを出して出来上がってきた音楽が、だいぶイメージと違うなあって思うことはあったりします?

三:ああ…テレビの場合は「そっか、ミステリアスとサスペンスが逆になっちゃったな」って思っても好きに入れ替えできるんで、ぜんぜん問題ないですね。ただ、劇場用はピンポイントなので「う〜ん、そう来ちゃったか…」なんてことがあると困りますよねえ。だから、できるだけ綿密に打ち合わせはしてるんですが…。

ゆ:それでもやっぱり違ったら、書き直してもらったりするんですか?

三:それができないから、音響監督の中で一番やりたくないのが音楽メニューなんですよね。何故かこの世界って、セリフは「絵と合ってないから来週リテイク」なんて感じでいくらでも満足のいくまで録り直しができるわけですよ。絵も監督が納得いくまでリテイクするじゃないですか。

でも、音楽だけは1発なんですよ。その1発のキッカケが全部こっち(音響監督)に来てるんで、音響監督の何が苦しいかって、音楽メニューですよ。これがなかったら、もっと髪の毛ふさふさだったのに(笑)

宮:ふははははは!(宮崎さん、思わず爆笑)

ゆ:そこに持ってく!?(笑) じゃあ、オケで録ったのが上がってくる前にデモで大体のイメージを聴いたりはしないんですか?

三:それは人によりますね。

宮:デモを出す余裕のあるときもあれば、全くないときもあります。下手すると、レコーディングの当日にまだ何曲も残ってたりね…。

三:で、デモってのが、どこまでのデモかってのも人によって分からないんですよ。ときどき「あのデモ聴いてもらえましたか?」って言われて聴いたらすごくシンプルなデモで、でもまあ雰囲気は分かったから「良い感じなんで、この感じで進めてもらえれば…」って言うと、それを少し膨らませただけのが来たりね。実はもっと生オケとか使って厚くなるもんだと(笑)逆に、デモはシンプルな打ち込みだったのに本番は壮大な生オケに変わってたりね。だから、この会話すごく難しいんですよ。作曲家さんに「これ、どこまでのデモなんですか?」って聞いたら「どこまでのデモ?」って言われるし(笑)

デモを聴いてるときに「これ、弦はどうなるんだろう?」とか「この打ち込みのコーラスは、本番はちゃんと人の声になるのかな?」とか色々と聞いてみたいんだけど、僕は予算に関わってないから、どこまで聞いていいのか分からないんですよねえ。

宮:音楽予算の問題もあるけど、日本の劇伴の場合は貸しスタジオを使用しての録音がほとんどなので、無制限に時間を使うことはできません。だから1発でしか録れないってのは、そんな事情にもよるんです。

ゆ:録り直すとなると、録音の日からTDまでまた何日かスタジオを押さえなきゃいけないし、そのスタジオ代もミュージシャンやエンジニアさんのギャラもすごく大変ですよね。

宮:そうそう。劇伴録りの場合、ミュージシャンは最低2時間押さえという取り決めをしています。ミュージシャンの立場からすると短時間で何十曲も演奏させられたらたまったものじゃないし、良い演奏になりませんからね。

三:あ、そうなんですか!?

ゆ:みたいですねえ。まあ、たった1時間であれもこれもそれも…なんてなると、みんなが心も体も疲れちゃいそうですよね。とはいえスタジオミュージシャンの時給も人によってはすごい高いようなので、やっぱり録り直すとなると大変なんでしょうねえ。

三:へえ。居酒屋で「鍋1人前○円。2人前以上から」ってのと同じなんですね(笑)

宮:あはははは!

ゆ:うまい例え!

宮:でも、ほんとそういうことですよね(笑)

 

ゆ:ところで、三間さんは何か楽器をされた経験はあるんですか?

三:いや、全くないですね…楽譜もざっくり読めるだけ。あ、でも学生のころにバンドやってたんですよ。歌ってました。

宮:僕はセカンドタンバリンでした。

三:僕もタンバリンは持ってたけど「おまえが叩くとリズムがメチャクチャになるから叩くな。叩くなら太ももを叩け」って言われて、そうしてましたね(笑)

ゆ:宮崎さん、セカンドタンバリンって…(笑)
でもまあ、お2人にタンバリンという楽しい共通の思い出があるんですね(*^^*)

 

〜魅力ある声優さんとキャスト選びについて〜

 

ゆ:じゃあ、今度は声優さんについて…三間さんの思う、魅力ある声優さんってどんな人ですか?

三:心を開いてる人…かな。最近は閉じてる人が多いから。不安が多い社会だからかな?自信の持てない世の中?だから、自分を隠してしまう。隠して、そのキャラクターのイメージだけを追ってしまう。そうするとセリフには目的がなくなる、伝えるものがなくなっちゃうんです。たとえば可愛いキャラクターに声を当てるのに「可愛くしなきゃ」って思うのは、自分に自信がない本人。だって、そのキャラクターって「可愛くみせよう」という目的でセリフを言ってるわけじゃないから。

中の人は素っ裸になって、あからさまに恥をかかないとできないと思うんですよ。役者さんって、人を楽しませるお仕事。自分の殻を脱ぎ捨てないと、相手には「想い」ってつたわらないんじゃないかと。だからバーンと脱げる、ほんとにおバカになって人を楽しませようとしている人がとってもいいと思いますね。

ゆ:でも、いまお聞きした「魅力」ってのが、必ずしもキャストの採用条件になるってわけでもないんですよね?

三:そうですね。そこがまあ難しいところですよね。みんながそこに着目してるわけではないし、中には「え、可愛いからいいじゃん」「明るいからいいじゃん」「あの子、いい子だよね」ってのもあるし。僕からすると「いや、いい子は関係ないし。役者にいい子なんていない。みんなキチガイだし」って思う。だって、キチガイじゃなきゃ、役者さんは、できないと。自分の中に沢山の人格を宿わせるわけだし。

ゆ:この前まで放送してたアニメの制作現場を描いたアニメの中でキャストを決めるシーンってのがあって、そこでは監督さんや音響監督さんがいいなと思ってるのとは違う子を、クライアントさんや原作者サイドから推してきてたんですね。やっぱり、実際にもそんなことってあるんですか?

三:あるんじゃないですか?でも、僕はオーディションには口出ししません。だって、自分が一緒にやりたい人なんてのを選んでたら、いつもキャストが同じになっちゃうじゃないですか。ほかの音響監督さんは知らないけど、僕は「好きなのを言ってください。どんなお魚を持ってきても、お客さんに喜んでもらえるようなお料理にしますよ」ってのが僕の特典だと思ってるんですよね。

でもまあ「AとBどっちがいいですかね?」って聞かれれば「僕だったらBですかね」とは答えますが、「絶対Bですよ。Bしかないですよ!」ってのは言わなくなりましたね。最初のころは自分が現場で苦労したくないんで自分の意見を言ってたけど、そうやって苦労するのが面白いんだもんなあって思うようになってきたんですね。

ときどき「ええっ!三間さん、誰でもいいなんてそんな無責任な…!」って言われるけど「無責任じゃないよ。どんなのを持ってきても現場で何とかするからっていう責任を持った『どれでもいい』なんだよ」って言ってますね。

ゆ:三間さんのところにいると、声優さんたちは色んなことが学べそうですね(*^^*)

では、最近はタレントさんや俳優さんが声を当てるのに参加するケースが増えてきてますが、これについてはどう思われますか?

三:役者さんはそのキャラクターの目的である気持ちを伝えればいいので、タレントでも声優でも同じと思っています。違うのは、口パクを合わせるテクニック。

まあ、楽器を奏でると考えたとして「フルートってこう吹くんですよ」ってところから教えて「じゃあ、譜面通りに1回やってみましょうね」「そこでもうちょっと気持ちを入れるとどうなりますか?」ってことをやっていくと、ちゃんとフルートの音色が出てくるわけです。だから差はありません。

 

〜アフレコ現場での苦労話〜

 

ゆ:じゃあ、アフレコの現場で苦労したお話などを

三:初めて会った国の方…。ああ、この人はアメリカ人なんだって思えば英語で対応できるけど、初めて聞く言語の人とはどう会話していいか分からない。何を言っても伝わらない…そういうときは難しいですね。

ゆ:何のお話かと思いましたが、まあ昔で言うところの「新人類」みたいなことですかね。じゃあ、そういうときは、ただもうひたすら色んな方法を試すんですか?

三:そう、とりあえず色んな言語で話しかけてみて、反応を見る。で、ちょっとでも反応したらそこを信じて、その反応したものに近い言語を並べて、さらに反応を引き出すようやってみるってところですね。

たとえば、ある状況で「こういうときって怒るじゃない?」って言ったら、必ず「はい」とは言うんですね。でも、そういうときに怒ったことがない子ってのがいるわけですよ。心の中ではほんとに怒ってても、親の前でも「バカ!」とか「ほっといてよ!」って言えない子がいっぱいいるわけですよね。つまり先ほどお話しした「閉じてる」ってことで。そういう子が声優になりたいって来ちゃったとき、ほんとどうすればいいんだろうって悩みます。

でも、そういう子たちに対して「かわいい」「助けてあげたい」って思っちゃう人も中にはいるわけですよ。でも、そうなるとその子はもう「表現者」ではないわけですよね。そういう子に色んな役を与えたところで出来るわけがなくて、誰とも絡まない独りごちたものになります。

ゆ:そうやって自分の中だけで回ってて周りの人とうまくコミュニケーション取れない子って、声優さんに限った話でなく一般的にもすごく多いですよね。普通の生活の中でも難しい問題がいっぱいあるのに、それが「表現者」となると本当に大変だと思います。

 

インタビューの会場となったテクノサウンドのすぐ近くにあるアオイスタジオ。

宮崎さんのお話ではもう劇伴の録音に使われることはないそうですが、いまでもアフレコの収録としてはガンガン使われてるそうですよ。

この日、宮崎さんとは新一の橋の交差点で合流したんですが、これから先のことを思って緊張で目が泳ぎまくってる私に「お散歩がてら、ちょっと遠回りしていこうか♪」と、ここへ連れてきてくれました。

私がインタビューをお願いした時間の前後には何かの収録があるということだったんで、おそらく三間さんはこのスタジオから駆けつけてくださったんではないかと…。

 

〜忘れられないエピソード〜

 

ゆ:では次に、感動したとか良かったなあとか、忘れられないお話はありますか?

三:シリーズが終わるときって、すっごくホッとするんですよ。ずっと戦いなので(笑)
で、僕は「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」の打ち上げのときに、初めてみんなの前で泣いちゃったんですよ。ずっと「僕はノーコメントで」って言ってたのに、「最後に三間さん一言ください」って言われて前に行ったら、言葉に詰まっちゃって…。

ゆ:鋼の錬金術師は水島監督版で大変なブームになりましたが、その人気を受けての制作ということで、色々とご苦労があったってことでしょうか?

三:先にお話したような狙いがあって入江監督の方では大幅にキャストを変えたわけですが、「FULLMETAL ALCHEMIST」はそうした色んな部分での変更に、まずたくさんの抗議のお言葉をいただくというところからスタートしました。

ゆ:ああ、私はもともと大川透さんが好きだったのでロイに決まったときは嬉しかったし、FA(入江監督版)でキャストが変わったときにはちょっとショックでしたね。でも、三木眞一郎さんも好きな声優さんなんで、何か複雑な気持ちだったのを覚えています。

三:まあ、原作寄りに作ったFAのロイは若くて青くてちょっと危なっかしいから、大川さんの渋くて落ち着いてる雰囲気よりも三木さんの方が合ってると…。

ゆ:はい、確かに…原作のロイは色々と突っ走ってしまうところがありましたよね。だから、最初はキャスト変更にショックを受けてた私も、いざ放送されたアニメを見てたら「FAの方は、やっぱり三木さんで良かったなあ」なんて思ってました。

三:で、監督が変わるということは作品に対しての解釈も演出も変わるということで、それを僕が理解してキャストに伝えて気持ちを持っていくというのが、なかなか大変でした。それに、入江監督のときは原作と並行して進めてたから、先が見えないっていう不安もありましたね。そんな中で60本も戦ってたので、終わったっていう安堵感から感極まっちゃって…。

ゆ:そうでしたか…。
私は水島精二監督と會川昇さんが作った「鋼」にハマって、DVDとか設定画集とかシナリオブックとか色んなものを集めまくったんですね。で、FAでもファンブックとかはしっかり買いつつも、前よりは少し肩の力を抜いて見てたんですが、そんなお話を聞いたらちゃんと1話から見直してみたいと思いました。

三:もう1つ心に残ってるものとして…実は僕は何年かに一度ベガスに行くんです。べガスの楽しさは、世界一というショーをたくさん観て「こんなエンターテイメントを作りたいなぁ。まだまだだなぁ…悔しいなあ」って、今一度自分のバネに鞭打って日本に帰ってくるんです。

ゆ:あ、よく宮崎さんと一緒に行ってますよねえ?

三:あはは!よく、は行ってないよ。付き合ってるわけじゃないから(笑)宮崎さんとご一緒したのは、僕がべガスにハマった最初のときかな。

宮:うん、そのときに三間さんと素で話す時間がけっこうあってね、ああいうのはいいよなあっていつも話してるんです。

三:それまでは宮崎さんのことをよく知らなくて、仕事の発注の間口でしかなかったんですよね。ただ僕のやりたいことを伝えるだけで「お疲れさまでした」って終わってたのが、べガスに行ったときは…あ、そのときは監督もいたんで、ふとしたときに「あのM24ってね」とか「あのキャラってこうじゃない?」「いや、こうじゃないかなあ」みたいにあれこれ話せてコミュニティがあったんですよ。

ゆ:そうやって、互いに思ってることをちゃんと声に出して話し合うって大事ですよねえ。

三:そう。で、みんなそこにいて共通してるから、「あの打ち合わせで言ったこと、ちゃんと伝わったかなあ」なんてこともなく、誰にも不安がなくなるわけじゃないですか。だからもう「この3日以上は一緒にいたくないなあ。これ以上いたら仲良くなりすぎて、仕事でなくなっちゃうよ(笑)」くらいの、とってもいい時間でしたね。

ゆ:そうでしたか。一度そうやって心を通い合わせる時間が持てると、そのあと例えゆっくり話し合う時間がなくても、前のようにほんとただ伝えたいことを伝えるだけってのとはまたちょっと違ってきますよね。

 

〜若い声優さんに望むこと〜

 

ゆ:では、これからのアニメ界を担う若い声優さんたちに身につけてほしいこととかありますか?

三:たくさんバイトをして社会に一度は出てみること。最近は「アニメが好きだから声優さんになりました」って感じの人が多いんですけど、それは単にアニメのキャラクターに惚れたり感動してるだけであって、アニメの中の良いお芝居を見ていない…そういうの、僕は拒否なんですね。アニメは人と人との関わりというドラマをアニメにしているんであって、アニメをアニメにしてるわけじゃないでしょう。その人との関わりを持たずにテレビばっかり見ていたんでは、役者さんは育たないと思うんですよね。で、これは声優さんだけでなく、アニメを作る人の方にも言えることだと思うんです。

アニメの始まりって、実写を作ってた人たちが「何か違うことをやりたい」とか「声の世界で一花咲かせてやろう」っていう野心を持ってやってきたのに、いまは「アニメが好きだからアニメをやってます」とか「声優さんに感動させられて元気をもらったので、私もみんなを元気にさせたくてやっています」って人が多いかと…。

そういう人たちに「じゃあ、君はいま何に挑んでるの?」って聞いたら「口パク」って言うんですよ。で、「あっそう、口パクね。じゃあ、君が見て感動させられたっていうアニメは口パク合ってた?」って聞くと「そんなの見てません」って言うんですよね。だから「それ、おかしいだろ。そんなんじゃ人の心を動かせないよ?志が変わっちゃってない?」って話をよくしますね。

ゆ:ああ、自分が夢見て憧れた、その世界の中だけで生きてるって感じなんですねえ。

三:だって、いまの子たちの目標、頂点が「声優になりたい」だったりするから。「声優になりたい」って言うのは「事務所に入る」っていう声優である証明ってことなんです。で、この子たちが次に何を思うかっていうと「事務所をクビにならないこと」。だから、いつも社長やマネージャー、もしくはプロデューサーの方ばかり向いてるんですね。そんな子がいざ現場に来ても「ちゃんと事務所に所属して声優やってる私」に満足しちゃってるから、そこにお芝居に対するバネは何にもなかったりする。で、叱れば叱るほど「この現場つらーい!やだもう!あっちの現場はみんな優しくしてくれて良かったのに…」なんてことに?もう目的が根っこから違うんだと…。

そういうときは褒めます。
「(三間さんハイテンションで)いまのすっごい良かった!キュンときた☆でも、僕はこんなふうにやってくれるのも見てみたいなあ〜♪」ってね。そして「わかった♪やってあげるよ☆」みたいな気持ちに持っていかせる。

でも、梶(裕貴さん)とかは高みを見てるんで「梶、違うだろ。いまのなんか、ぜんぜん足りない。俺のここ(心)に来ないもん!」って言うと、何くそ!ってバネが、演技が変わります。その結果「すみません、声がひっくり返っちゃった…」なんて言うんですけど、「声が裏返ることが何なの?このキャラの必死なときの声を知ってるの?」「分かりません…」「じゃあ、いいじゃない!いま初めて出てきた感情の声なんだ、バッチリだよ!」ってやりとりをしますね。

ゆ:うわあ、そういう白熱したやりとりは、こうして聞いてるだけでも心が躍りますね。

それにしても、梶さんの演技の幅は広いですよねえ。低音の小声でぼそぼそ喋る心に傷を抱えた高校生やってるかと思ったら、やんちゃだけど妙にナイーブなところがある高校球児やってたり、最近だとやっぱり「進撃の巨人」ですかねえ。絶叫のシーンなんか、ほんと胸に迫るものがありました。

そういえば「黒子のバスケ」で火神くん役の小野友樹さんもたまたまひっくり返ったのがよくて、そのまま採用した…なんてお話がツイッターにありましたね。

三:だって「いまのひっくり返ったのが良かったから、もいっぺんやって」ってできるもんじゃないじゃないですか。てことは、そこに彼らの魂が入ってたって思うので。

ゆ:このあたりのお話は、ちょっと劇伴の録音に通ずるものがあるかなあとか思いました。ときどき「何回も録るよりはテスト録音のときの方がみんなに集中力と緊張感があって良い演奏だったから、テスト録音の方を採用した」なんて話を聞くんですが、そんな感じですかね?

 

宮:まあ、テスト録音の方が良かったってのは、ごくたまにだけどね。ただ、ポップスや歌謡曲のときはミュージシャンの気持ちが一番のってるときが演奏もいいわけで、それが2回目なのか3回目なのかはよく聴いてて判断しなきゃいけない。歌(歌詞)が入ると気持ちが入ってきて色々と変化があるでしょ?

ゆ:そうすると、やっぱりテストのときよりは、歌が入ってきたときの方がずっといいって感じ?

宮:うん、まあね。だいたい1回目はズタズタなことが多いんだけど、それでも消さずに置いとくんです。で、2回目からはよく聴いてて「ああ、いい演奏だなあ」と思ったら、「OKテイクでいただきま〜す!」と意思表示をして、そのあと各パートの直しやオーバーダビング。

 

三:それはアフレコと変わらないですね。我々もテストは置いとくので。

ゆ:それはやっぱりテストの方が良かったってときのためにですか?

三:テストの方が良かったってのは、やっぱり劇伴と一緒で稀ですよ。みんな探ってるから。ただ、探ってる芝居が逆に良かったってことがあるんですよ。「テストのときは力が抜けてて良かったのに、本番は確信に変わっちゃったなあ…じゃあ、そこはテストから持ってこよう」なんてことはありますよ。

でもそれはキャラのほんの一言だけであって、全部がテストの方が良かったってのは今まで30何年やってきて会ったことない(笑)

 

宮:音楽の場合は、日本のスタジオミュージシャンは恐ろしく上手くて器用だから、スタジオで楽譜もらって初見でやっちゃうでしょ?

ハリウッドなんかはリハの時間を設けて余裕を持ってやるので、もうしっかりと弾きこなした段階で「さらによくしよう」って気持ちで本番に臨むのでしょう。みんな集中して「どうやったらいいのかな?」ってのがリハの時間。

ゆ:声優さんはスタジオミュージシャンみたいにその場で初めて台本もらって…ってのではなくて、先に何か練習用ビデオみたいなのを見ながら、おうちで練習してくるんですよねえ?

三:いやいや、これが同じようなことがあるんですよ。アメリカだとまず顔合わせがあって、本読みがあって、それで本番にいくんだけど、日本のアニメーションって、スタジオ来て、テスト・ラステス(ラストテストの略)・本番と3回しかないんですよ。日本のミュージシャンと一緒ですね。

で、いま言ったような「家で台本とV(ビデオ)を見ながら」ってのが僕の中で最近すごく嫌でね…何でかっていうと、みんな自分の部分だけの100点を狙って練習してくるんです。でも、その100点って自分がうまくできた、自分の決めた100点であって、現場での指示に対する100点ではないんですよ。自分で決めた100点を持ってくると、現場でなかなか、こちらの出す指示に向き合えなくなるんです。

つまり、自分だけ綺麗に喋って、自分だけ家でやったのと同じようにやろうって思うから、他の人のセリフ聞いてないんですよ。前の人がどんなセリフ喋ってても、自分は同じことを何回でも繰り返します。100点ですから。こっちがダメ出ししても、もうその100点を崩せないんですよ。

それで先週から、ある番組はもう台本だけ渡してV渡してないんですよ。そっちの方がね、若手が良いんです。「そうじゃないでしょ。いまの○○のセリフ聞いた?○○があれだけ熱く言ってるんだから、こっちも熱く否定して」っていうと変われる。

ゆ:これも先ほどのお話にあったコミュニケーション能力のお話と相通ずるものがありますねえ。そうか、自分の殻から出られないんですねえ。

三:それが開いてないってことなんですよ。

ゆ:ああ、なるほど!
じゃあ、これから先その練習用ビデオを渡さない方法がどんどん広がっていくかもしれませんね。

三:そうそう、僕は役者さんに「アフレコして、反省して帰るのはやめて」って言ってるんですよ。そしたら「何でですか?」って言われるんだけど…

ゆ:はい、私もよく分かりません…

三:まず、家を出る前は今日は頑張ろうって気持ちで行くから「+1」でしょ。で、アフレコやって失敗したなあと思うと「−1」、それでプラスマイナス「0」になる。帰り道は反省してるから「−1」、で、次のアフレコのときは頑張ろうって思って家を出るから「+1」でプラスマイナス「0」。これって、ずっと「0」から出てないってことでしょ(笑)

ゆ:ああ、確かに!

三:スタジオで僕が言ったことができれば、それは「+」でしかない。そしてそれが次のときもできるって思えば、さらに上にいけるわけでしょ。だから必ず向上心を持って、上に向いていきなさいって言ってるんですよね。

ゆ:なるほど。私なんかは「しっかり自分と向き合って反省して、そこから立ち上あがって次に生かすことが大事」なんて思ってたんですが…

三:反省って「挑む」ことだと思うんですよ。でも、いまの若い子たちって、反省では「沈んでいってしまっている」ことに気付いていないんじゃないかと。何で私はできないんだろうって自分を責めたところで、一週間では何も解決策は出てこないので…。

ゆ:ああ、そこから上に行こうではなくて、下を向いたままなんですね。

三:で、1回へこんで上を見たところで、なかなか「0」より上に行けない。それだとねえ…。

 

〜音響監督をやる上で意識してること〜

 

ゆ:ツイッターを拝見してても、いまのお話を聞いても、役者さんの気持ちの持って行き方とか演技指導とかとてもよく考えてらっしゃるなと思うんですが、ご自身はそのために何か努力されてることはありますか?

三:努力ってもんでもないけど、とにかく人と話す。
ドラマは人が作り上げたものだから、それを研究はしても、真似する必要はないかと。それよりはもっと身近なところにいっぱい面白いことがあると思うんですよ。

僕はいままで色んなバイトをやってきてるんですが、特にコンビニでやってたときなんか面白いお客さんがいるわけでしょ。そういうのが人として面白くて。だから、舞台や芝居で観たものではなく、「こんな風になって、こういうこと考えてる人がいたらどうなる?」って、コンビニに来たおっさんをやらせる方が面白いなあと思ってますね。

ゆ:私もとある営業所で働いてるので、毎日ほんと色んなお客さんが来て面白いですね。で、役者さんたちにも色んな人と関わって、色んなことを学んでほしいと…

三:だから、声優学校に行っては、恋愛しなさいって言いますね。火傷したって傷ついたっていいじゃない。どんな恋愛でもいいから、人とのコミュニケーションを持ちなさいって。だって、相手がいないと相手のことを考えないでしょ?

ゲームだと、AがダメだったらBね、BがダメだったらCね…って、選択しかない。で、必ず最後までいけるようにできてるのがゲームでしょ。でも、人生ってどこが最後か分からないし、最後までどこにいくのか分からない…だから面白いんであって、だからこそ人と付き合いなさいって言うんです。

それが不倫だっていいんですよ。役者さんになりたいんなら「不倫はダメだ」ってモラルで最初から結論を出すんじゃなくて、恐れずに付き合いなさいって。一般の人には勧めませんよ(笑)

たとえば熱い鉄板があって「これ熱いんだよ」って言ったときに「え、そうなんですか」って触っちゃうのが役者さんで、「ええ〜!」って引いちゃうのが一般人。そして「ああ、三間さんのいう『熱い』はこれなんだ」っていうのが、相手があって知ることですよね。僕が熱いって言ってるのがどれくらいのものなのかを感じる。それで「ええ、三間さんはこれが熱いんですか?料理してないなあ」とかいう子は、自分と僕との熱さの差をちゃんと感じてるわけですよね。それが役者さんの根っこな気がします。

ゆ:何事も自分自身をもって経験しないと、見えてこないってことありますよね。

 

〜歌って踊れる声優さん〜

 

ゆ:それにしても、最近の声優さんは顔出しするし、歌うし、踊るしで、なかなか大変ですねえ。

三:まあ、いま歌ものが流行ってるから。

ゆ:ああ、物語の中に歌が入るの多いですよねえ。
私は
「NO.6」で初めて細谷(佳正)さんの歌声を聴いたんですが、いい声してますよね。たまに音が外れそうになるけど、それもまた愛嬌って感じですし。

三:いい味がありますよね。確かに歌はちょっと危なっかしいところもあるけど、魂で歌ってるからいい。

ゆ:私はアニメで「NO.6」にハマって、その勢いで原作も最後まで買って読みました。アニメの最後がちょっと原作とは違ってたんですよね?

三:ノイタミナは13話で終えなきゃいけないんで…。

ゆ:それが何だかちょっともったいない気もしますが…そういえば、あの「NO.6」のあたりから細谷さんがぐんと出てこられるようになりましたよね。

三:そのころの細谷さんはちょうど自分の演技について見つめ直してたらしくて、そこであの「NO.6」に出会って「俺もっと頑張らなきゃ」って役者魂に火がついたみたいですよ。

ゆ:あら、そうでしたか。「NO.6」は登場人物が少なくて、ほとんど梶裕貴さんとの2人芝居みたいな感じで、やりがいあったでしょうねえ。これからも応援したい声優さんのお1人です。

ところで、現場でダメ出しとかして、役者さんに泣かれたことありますか?

三:ありますよ。
面白いのがね、「私いじめられたの…なぐさめて!」っていう泣き方の子と、「自分が負けたってのを人に知られたくない」って泣き方の子がいるのね。で、後者の方がバネがあってどんどん大きくなるから、目を真っ赤にしてスタジオに入ってきたところを「泣いて来たのか?」「泣いてません!」「よっしゃ、Bロールいこうか♪」って感じでね(笑)

宮:………(* ̄∇ ̄*)

ゆ:そうやっていじられて、強く大きくなっていくんですねえ。将来、その子たちが三間さんのことをどんなふうに語るのか、ちょっと興味があったりして…。

 

〜三間さんの思う現場の面白さ〜

 

ゆ:では、現場でのこういうところが面白い…みたいなお話はありますか?

三:僕は「ジョジョの奇妙な冒険」のドラマCDやってて、あれに「スタンド」っていう背後霊みたいなのが出てきて、しかもその背後霊同士が戦うんだけど、「こんなの絵のないドラマCDでどうやるんだよ!?」って(笑)でも、そういうのを「どう作ろうかな」って考えるのが面白い。どうすればどうなるのかなってアイディア出すのも楽しいし、それによって役者さんが翻弄されたり、喜んだりして変わっていくのも面白い。

ゆ:ジョジョはテレビ放送は見てたんで「スタンド」ってのがどういうのかは分かるんですが、こういうお話を聞くと俄然興味が湧いてきますねえ。近いうちにドラマCD聴いてみたいと思います(*^^*)

ほかに何かスタジオで工夫されたこととか、これは面白いなあってのありますか?

三:水島(精二)監督の「楽園追放」は、役者さんそれぞれの間に衝立を立てて、役者同士の全く顔が見えないように仕切りました。何でかって言うと、モニターを見ながらまるでゲーム感覚で会話するシーンなので、そのシチュエーションを作って、みんなヘッドフォンをして会話するっていうところに3人のベテランの役者さんを入れました。いつも立って演技するのが当たり前を「そうか、こうやって座ってオペレーションやってるんだ」って体感させてみる…これも面白い。

それから林原めぐみさんが主人公の「マルドゥック・スクランブル」は、林原さんに「この子って火だるまになって炎を吸って声が焼けちゃってるんですけど、どうしよう…」って聞かれて思いついたのが、骨伝導だったんですよね。で、林原さんに骨伝導のマイクいっぱい貼ったんです。そうすることによって、彼女は普通に喋ってるんだけど声帯がないっていう意識が出てくる。

実際には骨伝導の音は不明瞭で少ししか使わなかったんですが、映画では普通に録った音に骨伝導の振動を足して流してるんですよ。だから分かる人には「何か微妙に声がカサカサいってるな」って感じなんだけど、それが骨伝導なんです。でもまあドラマが伝わらないことにはどうにもならないんですが、林原さんの気持ちは喉を傷つけたキャラと共にそこにあるってのを作るんですね。

ゆ:やっぱりこうやってシチュエーションを作ってあげると、役と共感しやすいってのがあるんでしょうねえ。そういえば、「鋼の錬金術師」のときも、アルの声をバケツみたいなのの中で録ったってのがありましたよね。

 

三:そうそう、色々と試行錯誤しましたねえ。うん、最初はこうやってコップみたいなのを釘宮さんにつけさせたんですよね。

で、アフレコ終わってみたら口の周りに丸い痕がついてて「女の子なのに、これは可哀想だなあ。何か他にないかなあ」って思って。

甲冑だろ?甲冑に近いものって何だろう…って思って考えたら、ニューヨークにあるゴミ箱だったんです。事件とか起きると必ずガラーンってひっくり返るようなあれね。

 

あれをネットで買って、その中にスピーカーを入れて、そのゴミ箱の横に甲冑の口みたいなのを開けて、スピーカーから出た声をその口からマイクで拾った。釘宮さんは普通に喋ってるのを、そうやって声を回して収録したんですよね。すごいデジタルな時代なのに、アナログ感たっぷりでしょ(笑)そのころエフェクターがどんどん流行ってきてて、良いエフェクターを買えば何でもできるって感じだったんだけど、その「エフェクターを買えば、真似できちゃう。そうじゃないものを作ろうよ」ってことで。

ゆ:いやあ、こうやって日々さまざまな努力と工夫を積み重ねられたものが、私たちの元にやってくるわけですね。何だかアニメを見るときの気持ちが、また少し変わりそうな気がします。

では、最後に視聴者の皆さんに何か一言ありませんか?

三:これからも、楽しい作品を監督とともに作っていきますので、是非応援してください!

 

 

いかがでしたか?

冒頭のお話からも分かるように三間さんは東京のご出身なんですが、関西の芸人のような軽快なトークと絶妙なボケ・ツッコミで、いつもどこかしらに笑いのある楽しいインタビューとなりました。

三間さんが来られるのを待ってる間はあまりの緊張で手どころか息まで震えてて宮崎さんに笑われたりしてたんですが、いつの間にか緊張しながらも一緒に笑ってお話できるようになってました。これも、人と関わることをとても大切にされてる三間さんのおかげですね。ほんと三間さんのお話には、役者さんも私のような一般人も関係なく、たくさんの気づきと学びがありました。あらためて、こんな素晴らしいひと時をくださった三間さんに、心から感謝したいと思います(*^^*)

ただ、音響監督さんというお仕事の傍らで熱心に活動されてるカートのこともお聞きしてみたかったんですが、ちょっと私の心に余裕がなくて聞きそびれてしまいました…それが残念(>_<)

いつかまたお話できる機会があることを心から祈りつつ、今回の対談を終わりたいと思います。

 

2015年4月29日 

 

 

 

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