〜作曲家・水谷広実さんに迫る〜
「ほんとにあった怖い話」「トリコ」「地獄少女」「のんのんびより」「田中くんはいつもけだるげ」などの劇伴のほか、キャラソンやアニソンもたくさん手がけられてる水谷広実さん。私は一度お会いしたことがあるのと、何度かのメールのやりとりでとても気さくで面倒見の良い方だなあということは知っていたのですが、作曲家さんとしての水谷さんのことをもっと知りたい、皆さんにも知っていただきたいと思い、今回の場を設けさせていただきました。 ころころとテーマが変わって慌ただしく感じられるかもしれませんが、それだけ色んな角度から水谷さんに迫ってみた結果ですので、どうぞ読者の皆さまのペースで楽しんでくださいませ(*^^*) |
☆水谷さんは「み」、私は「ゆ」で表記します☆ |
〜4年ぶりの再会〜
ゆ:どうもどうも♪ み:あ、そうでしたか(笑) ゆ:はい! |
水谷さんにインタビューさせていただいたこの日は、奇しくも「田中くんはいつもけだるげ」のサントラの発売日。 ちょっと早めに待ち合わせて、一緒に渋谷駅から歩いてすぐのレコード屋さんに行きました。作曲されたご本人とお買い物なんて、すごい幸せな気分にさせていただきましたよ(*^^*) |
〜小さいころはスポーツ少年〜
ゆ:まず、いつごろから音楽の道に進みたいと思ってましたか? み:いやあ、小学校のころは野球選手になりたくて。中学校のころは何だったかな…覚えてないなあ。それくらい明確なものはなかったってことですね(笑)。 ゆ:あら、野球選手って男の子らしい夢で微笑ましいんですが、音楽とは無縁な感じですね。あ、部活は何をされてたんですか? み:小学校のころは野球部でしたね。で、高校のときはゴルフ部だったんですよ。 ゆ:それでプロ野球選手に憧れて、みたいな感じだったんでしょうかね。それにしてもゴルフ部とは…私たちの世代でゴルフ部のある高校って珍しいように思うんですが、それも含めて何かすごい…! で、どちらも音楽とは無縁な感じですが、ゴルフしながらも何となく音楽の方に行こうかなとか思ってたんですか? み:いや、音楽はただ好きだったってだけで、まあピアノは習ってたけど…。作曲は誰かに習うとかじゃなく、まったくの趣味で自分で好き勝手に書いてたって感じです。 ゆ:いまのご活躍ぶりからは想像できない、ほんと普通の高校生って感じですねえ。ピアノは何歳くらいから習ってたんですか? み:ピアノも高校1年生からなんですよ。 ゆ:へえ。高校1年生からって、かなり遅い方ですよね。小さいころにオルガン教室に通ってたこともなく? み:うん。あ、妹がピアノを習ってたんで家にピアノはあったんです。だからピアノに触る機会ってのはあったんですけど、そのいうクラシックピアノの先生に就いて習ったってのは高校生からですね。
〜感動を、音楽を解析する〜
ゆ:それは…おうちのピアノを触ってるうちに、もっとちゃんと弾けるようになりたいなあとか、何かそういう理由があってですか? み:ピアノ自体を上手くなりたいという気持ちじゃなく…いやまあ、楽器なんでそういう気持ちも当然ありますよ。でも習い始めたキッカケは、解析がしたくて。 ゆ:解析!? み:うん。音楽って感動するじゃないですか。だけど感動って数字とかで見えないじゃないですか。で、どういう仕組みで音楽が感動するのかが知りたくてね。でも、何をどうやって勉強したらいいのか分からないし、誰も教えてくれないし…で、とりあえずピアノを習い始めたんです。あ、高校のときに理系とか文系とか選ぶと思うんですけど、僕は理系だったんですよ(笑) ゆ:何と、そういうキッカケから始める方もいるんですね。これはまた珍しい。そして面白い! で、そうやって始めた音楽にハマって、ついに大学は音楽方面に…ですか? み:いや、大学も理系…建築を学んでました。 ゆ:おおお、大学までも全くの畑違いなんですね! み:ただまあ大学での専攻は建築でしたけど、ずっとバンドをやってたんで、学生生活の思い出はどちらかというと音楽の比重の方が高いですね。親には申し訳ないですけど(汗) ゆ:でも学生のときしか出来ないことってのもありますしねえ。きっと親御さんも分かってくれてますよ。で、そのバンド活動っていうのは、どういうジャンルのものなんですか? み:プログレ(Progressive rock)ですね。 ゆ:おお! み:いやあ、場所が北九州の田舎だったんで、ぜんぜん人が集まらなくて。多分ポップスとかロックのバンドはいっぱいあったと思うんですけど、僕がやってたのはプログレとかヘヴィメタルだったんで、やってる人があんまりいなかったんですよね。だからメンバーを集めるのも、いつもすごく苦労しました。 ゆ:ああ、これぞ「田舎あるある」ですよねえ。そこでキーボードをやってたんですか? み:そう、キーボードをね。 ゆ:どこかライブハウスを借りて…みたいな? み:いや、ライブも数回しかやってないですねえ。 ゆ:でもまあ、気の合う仲間と集まって好きな音楽やって、いい学生時代だったんですねえ。そのころの心に残るエピソードとかありますか? み:建築の図面を書く製図台に譜面を貼り付けて、大学の宿題そっちのけでひたすら譜面書いていましたね(笑) ゆ:うは!正面から見ると熱心に図面を書いてるように見えるのに、背後に回ると実は…なんですね(笑) |
買ってきたばかりの「田中くんはいつもけだるげ」のサントラにサインしていただきました! オンマウスでサインの部分がアップになります(*^^*) |
〜高梨康治さんとの出会い〜
ゆ:では、お師匠さんである高梨康治さんとの出会いはどういうものだったんですか? み:高梨さんと出会ったのは、僕が27歳のときなんですよ。 ゆ:へえ!
み:実は違うんです(笑) ゆ:わあ、あの「安全第一」のヘルメットかぶって、建築現場であれこれ忙しく立ち回ってたんですね! み:そうそう(笑) ゆ:じゃあ、ほんとにそれまでは作曲は完全に独学で? み:そう、独学ですね。 ゆ:へえ、すごいなあ。 でも、独学って一体どんなことするんですかね…お聞きしてもいいですか? み:専門書を読んだり、曲解析したり、ですね。 ゆ:それを誰の教えもなくやるって難しいことだと思うんですが、すごいなあ。そういえば高梨さんもキーボード奏者さんだったと思いますが、高梨さんの元ではどういうことを習ったんですか? み:習わないですね、学生ではないので。 ゆ:なるほど。確かに、いつまでも受け身の学生気分じゃダメですよね(^_^;)
〜引き出しの多さの秘訣は?〜
ゆ:そこで1つ質問を。 み:まあ、それもあるんですけど、いちばん大きかったのは高梨さんの下に付いたことですね。高梨さんはわりとジャンルの偏った方なので、高梨さんが得意じゃないジャンルのアレンジサポートとかしてると、自然と僕の方は豊富になりますよね(笑) ゆ:ああ、なるほどねえ。それは最初はきっと分からないことだらけで苦労も多いかと思いますが、それでもすごくいい勉強の機会ですよね! み:はい。高梨さんとはヘヴィメタルというジャンルでつながってた部分が少なからずあるんですが、実はヘヴィメタルが好きな人はクラシックも好きな人が多いんですよ。まあ、僕はもともとピアノやってたのもあるんですけど、そんなわけでジャンルの垣根はあんまり感じたことないですねえ。 ゆ:それがあの引き出しの多さにつながっていくんですね。あ、高校のときに習い始めたというピアノはいつくらいまで? み:途中で先生は変わりましたけど、大学を卒業するまでは習ってましたね。 ゆ:いやあ、すごいなあ。そのままこうしてプロの世界にまで行って、しかもこんな風に大活躍されてるんですから。
〜音大卒と非音大卒〜
ゆ:あの、ちょっと失礼な聞き方になってしまうかと思うんですが、こうした劇伴の作曲家さんの世界には音大卒の方も多いですよね。そうすると音大卒ではないことで困ったり、嫌な思いをしたり、逆に得したこととかありましたか? み:音大卒じゃなくて得したことは一切ないですね(笑) ゆ:ああ、そういうもんなんですか…。 み:それはそうです。音大でしか学べないことがありますからね。 そういえば、いまはもうあんまり聞かないですけど、昔は音大卒かどうかを気にするクライアントとかいましたねえ…。 ゆ:仕事を依頼する段階で「この人、どこの出身?」みたいな感じで? み:そうそう。もしかすると、いまでも演奏者の方はまだ少しそうした見方があるかもしれませんが、作曲は今はもう聞きませんね。 ゆ:なるほど…でも、あれだけの引き出しがあれば、もうそんなの全く関係ないって感じですよね♪
〜はじめて手がけた作品〜
ゆ:ところで、高梨さんと合同で劇伴を担当された作品がいくつかあると思いますが、水谷さんが初めて1人でやったという作品は何ですか? み:アニメの劇伴とかとは違うんですけど、僕の名前としてちゃんと出て、CDも出て…ってのは「ほんとにあった怖い話」ですね。 ゆ:ああ、「ほんこわ」が初めてでしたか。いやあ、あの口笛の強烈なインパクトときたら…もう聴いたことない人はいないんじゃないかというくらい有名になりましたし、夏と言ったらこれ!みたいなロングランな番組になりましたねえ。
み:初めてやったものがいちばん有名になったってのは偶然なんですけど、珍しいとは思いますよね。 ゆ:あれはその都度いろんなお話が作られてますが、その音楽も全部やってるんですか? み:いや、全部はやってないです。テーマ曲とそれに付随する音楽をいくつか書いて、ほかはもういわゆる音楽素材ってやつではないでしょうか?
〜アニメとドラマの作り方の違い〜
ゆ:あの…1つの作品の中で作曲家さんが作った曲とフリー素材の曲を混ぜて使われることがたまにあるでしょ?ああいうのって、作曲家さんからしたらどんなお気持ちなんですか? み:アニメではまずそんなことはないけど、ドラマではごく稀にあるって聞きますねえ。でも少ないと思いますよ。 ゆ:はい。前にとあるドラマでそういうことがあって、その劇伴を担当された作曲家さんはオンエアを見て「聞いてないよ〜!」って驚いたというお話があったので。 まあ作曲家さんのお名前がクレジットされてる以上、視聴者はそのドラマ内で流れてる全ての音楽をその作曲家さんが作ったと思ってしまうと思うので、それは1曲1曲に心血を注いで作ってる側からするとあまり気分の良いものではないのかなあとか思ったり…。 み:まあ、そこにはドラマとアニメの作り方の構造の違いってのもあると思うんですよね。アニメは全何話で、こんな流れで…って、ほぼ全体の形ができてる状態で作曲家に発注がくるんですよ。だから外れの少ない発注がきます。ドラマはもう少し大雑把な感じの発注ですね。 ゆ:ほぉ〜。あ、そういえば韓国ドラマは視聴者から寄せられた感想や視聴率によって、どんどんストーリーが変わっていくらしいですよね。そうなってくると最初に用意した音楽では足りなくなって当然ですし、追加録音する時間や費用がないとなると音楽素材を使うってことになるんですかねえ。 み:そうですね、ドラマはそういうちょっと特殊なところがあるみたいですね。 ただ韓国のドラマは日本のとはちょっと違って、曲を使いまわしたりしてるんですよね。たとえば「冬ソナ」で使われてた曲が他のドラマでも使われてたりとか…。 ゆ:あはは。そのへんがすごいですよねえ。 あと私が気づいたのだと、日本の超有名なゲームの中のこれまた有名な切なく美しい1曲が韓国ドラマの中で使われてたってことがありましたね。 み:そうなんですよ。そのあたりが日本と比べると緩いところがありますよね。
〜いきなりのテレビ出演と「ほんとにあった怖い話」〜
ゆ:ちょっと話は戻りますが、お仕事を始めて間もないころで「ここはちょっと失敗だったかな」とか、初めてで勝手が分からないだけに苦労されたこととかありますか? み:曲に対しての「失敗」はないですね、そのときの自分の精一杯を書いてるんで。でも音楽じゃない部分ではありますよ。たとえば自分が取材を受けるっていう感覚を持ってなかったところに取材が来てしまうと…特に「ほんとにあった怖い話」のときは今回のような音声での取材じゃなく、いきなりテレビだったんですよ。あの「めざましテレビ」がきてね。 ゆ:わあ、すごいじゃないですか! み:とにかく、ただ引きこもりで音楽やってただけで、自分の衣装やメイクやヘアメイクについて考えたこともなかったんで「明日スタジオに取材が来るけど、服装どうする?」みたいな感じで困りました。で、そこで初めて外に対する見せ方みたいなものを意識しましたね。 ゆ:あ、ゲストで呼ばれる人には、スタイリストさんみたいなのはつかないんですか? み:つかないんです。 ゆ:なるほど、そんな初々しい過去が…(*^^*) み:ああ、そのときは僕に対しての取材っていうよりも「あの『ほんこわ』のメロディは何の楽器でできてるでしょうか?」っていうちょっとクイズっぽい感じで、「正解を作曲した人に聞いてみましょう」っていうVTRだったんです。 ゆ:ああ、なるほど。あれほんと、すごく耳に残る…というか、一度聴いたら忘れられない強烈なインパクトがありますよね。口笛ってのがまた余計にその印象を強くしてるのかな? み:あれも最初は色んな楽器でやってたんですよ。フジテレビの担当の方に「このテーマを色んな楽器で聴きたいから」って言われたんでデモをいっぱい作ったんです。ヴァイオリンだったりフルートだったり、10個くらい作ったかな…そしたら「口笛がいちばん怖い」ってことになったんですよ。 ゆ:確かに。私は先にあの口笛でのメロディを聴いてしまってるから思うのかもしれませんが、ちょっと弦楽器や木管楽器では想像つきませんね。 み:やっぱり「人」だから…「人」から出てる音だから、いちばん怖いんでしょうね。 で、たとえばアニメって、良くも悪くもアニメファンだけのものじゃないですか。歌にしてもいまはジャンルが細分化してるから子供は子供の音楽を聴くし、親は親の音楽を聴くし…で、共通して聴ける音楽ってそうないんですけど、あれ(ほんこわ)は関係ないでしょう。子供からお歳を召した方までジャンルも年齢層も選ばずに聴いてもらえるわけで、そういう音楽を作れる機会ってのはそうないので嬉しいですね。 ゆ:ああ、それは…いや私は作曲とかできませんが、やっぱり幅広く色んな人に知ってもらえる機会があるというのはとても嬉しいことでしょうね。何か偉そうで申し訳ないんですが、わかる気がします。 それにしても最初の作品で色々とすごい経験をされたんですね。これは、その後の大きな自信と励みになりますよね。あの番組は人気もあるみたいなんで、ずっと続きそうですし…うん、続いてほしいですね。 み:はい、僕もずっと続いてほしいと思います。
〜ターニングポイントになった作品〜
ゆ:その後いろんな作品を手がけられてますが、水谷さんにとってターニングポイントになった作品ってのは何でしょう? み:まあ自分の中ではけっこう最近なんですけど「人生いろどり」って映画ですよね。 ゆ:これ、私の住む徳島が舞台の映画ですよね。で、何でまたこれが? み:まあ「トリコ」までは「地獄少女」とかの大きなものにいくつか携わらせてもらってありがたかったんですけど、まだ自分の音楽がよくわかってなかったというか…。 で、「人生いろどり」、そのあと「神様のいない日曜日」あたりからは「これが自分の音楽だ!」っていう感じになったんですよね。サウンドも考え方も作り方もレコーディングの仕方も全部含めて。ターニングポイントとしてあげるなら、そのあたりですかねえ。 ゆ:そうか、水谷さんの中で何かが開花したってことなんでしょうかね。で、私としては水谷さんのターニングポイントになった作品が私の地元である徳島絡みの作品だってのがすごい嬉しいです。
〜手がけるならOPからEDまで〜
ゆ:またまた話は変わりますが、水谷さんは劇伴のほかに歌ものも作曲からアレンジまで色々と手がけてるでしょ? み:実は昨日もね、来年から始まる某アニメのEDのレコーディングだったんですよ。劇伴は僕と高梨さんでやってます。 ゆ:へえ、それは情報解禁の日が楽しみです♪ み:はい、できればテーマ曲も含めてやりたいって思いますねえ。だから今回の話は嬉しかったですよ。 アニメってOPはタイアップでも、EDはタイアップのときと、そのアニメ用に作ったり声優さんがキャラソンみたいな感じで歌ったりとか色々あるじゃないですか。 ゆ:そうそう、作品によってはEDが何種類もあるのとかありますよねえ。 あとタイアップって「このアニメに何でこの曲?」ってのから、何となくそのアニメの世界観に通ずるものだったりとか様々ですよね。アニメの世界観に通じてるものってのは、そういう曲を探してくるのか、それとも「このアニメとタイアップするから、こんな感じで作ってね」ってオーダーするんですか? み:そのアニメの世界観に似てるアーティストにオーダーしたり、アーティストの曲の中でアニメの世界観に通ずるものを選んで出してきたり…あとは「新曲を出しました、アニメあります、じゃあ組み合わせちゃおう」っていう全く色違いのものを出してきたりと色んなバリエーションがあるんで一概には言えないですね。 ゆ:なるほど。これでちょっとタイアップの謎が解けました。まあ、私個人としては、できればそのアニメに合わせた曲の方が萌えるのは萌えますけどね。 み:まあ、昔はみんなそうでしたもんね。
〜作曲家さんのお仕事はどこまで?〜
ゆ:劇伴の録音が終わったあとからオンエアが始まるまでに、または1クールなり2クールなりの放送が終わるまでの間に、作曲家さんとしてはどういうお仕事があるんですか? み:基本的には音ができあがって、ミックスダウンっていうか曲としてできあがってしまえば、あとは音響監督さんの仕事になるんですよね。その曲をどこでどんな風に当てるか…そういうのを音響監督さんがされて、まあ東映さんだと「選曲屋さん」って名前ですけど、それを監督さんとかプロデューサーさんとか演出さんとかがそれぞれ見て「ここはこうしましょう」って決めてやっていくので、その場に立ち会うこともあるけど基本的にはお任せですね。 ゆ:立ち会ったときに、自分としてはここにこの曲じゃなくて、こっちの曲がいいのになあって思うことは…? み:あ、そういうこともありますよ。 ゆ:そういうときは何か意見を言うんですか? み:いやあ、よっぽどじゃないと僕は言いませんね。 ゆ:まあ、餅は餅屋ってことですかね? み:曲は僕のものだけど、作品は監督のもので監督が作っていくものだと思ってるので、僕の方からはよほどでない限り何も言わないんです。 ゆ:なるほどねえ。私こうやって、その人それぞれの作品に対するポリシーみたいなのが聞けるのが本当に嬉しくて楽しいんですよね。 中にはダビングに熱心に立ち会って音響監督さんや選曲屋さんがつけた音楽に「あ、ここはね…」ってご自身の曲への気持ちを説明される方もいるわけですけど、きっとどっちが正解とかないと思うし、その人それぞれに真剣に色んなこと考えて作品に向き合ってる姿がほんといいなあと思うんですよね。で、それを知りたいしファンの方々にも伝えたくて、こうしてインタビューさせてもらってるんですよね。 み:ああ、そうでしたか。 ゆ:まあ、作曲家さんにとって曲は自分の子供みたいなもんだと思うので、色んな親御さんの気持ちを知れるというのは面白いし勉強になります。 で、水谷さん基本的にはお任せだそうですが、それでも現場で「やっぱりこれはちょっと…」とか思って意見を出して、そこでぶつかり合ったこととかありますか? み:「のんのんびより」が音に対する演出がすごいじゃないですか。あれを見たときに「ああ、音楽ってこうやって使うんだ」って思ったんですよね。「田中くんはいつもけだるげ」は「のんのんびより」と同じスタッフですけど、「ああ、ここは僕はこの音楽の方がよかったな」って思うようになりましたね。 ゆ:ああ、「のんのんびより」で色んな気づきがあってこその「田中くんはいつもけだるげ」だったんですね。 み:そうそう。だから「この曲、こういう使われ方するんだ」とか思ったし、そこから「この使われ方だと、このシーンがこんな風に見えてくるんだ」とか思いましたね。
〜「田中くんはいつもけだるげ」について〜
ゆ:そういえば「田中くん〜」はシーンごとに、ほんとに色んな曲が次から次へと流れましたよね。サントラのブックレットの中でなされてる監督さんと音響監督さんと水谷さんの対談によると、とにもかくにも「カフェミュージック」のイメージだとか…しかもチェーン店ではなく個人経営の「そこそこおしゃれだけど、おしゃれすぎないカフェミュージック」という細かい設定があるようで、なかなか面白いですね。
み:タンゴとかボサノヴァとかジャズをメインで劇伴にするのは実写ではありますけど、アニメではなかなかやらないので…しかもこの世界観なので監督も不安な部分があったんじゃないかと思うんですよね。 で、監督が「おしゃれすぎないカフェミュージック」などその作品の世界観を音響監督さんに伝えて、それを具体的に言葉にして僕ら作曲家に発注が来るですけれども、その過程でこの亀山俊樹さんって方はいい意味で発想が奇抜というか、僕が思いもよらなかった発注がくるので、ほんとそこにすごい助けられました。だって、普通の曲をつけちゃいそうなアニメじゃないですか。 ゆ:うん、確かに…のほほんとした会話がメインで、下手すれば音楽なしの会話だけで成り立ちそうな日常アニメですもんね。 み:そう。何となく流れてるふわっとした音楽をつけちゃいそうなアニメなんですよ。そこに尖った発注をしてくる…そういうところですごい助けられて、ベテランの発想のすごさを感じましたね。 ゆ:ほんと、サントラの帯には「音楽もけだるげ」なんて書いてますけど、ぜんぜんけだるげじゃないですよね。もちろんカフェミュージックという心地よさや安らぎはあるんですけど、劇伴としてはすごく斬新というか…ねえ? み:あはは、ほんとにね。 でも、向こうは音楽を作る人じゃないんで、「僕、これ作れるのかな…」って思っちゃうくらい全く手を緩めてない、すごいハードルの高い発注をしてきちゃうわけですよ。だから、こちらとしてもすごいチャレンジさせてもらえるわけですよね。 ゆ:いきなりハードル高くてビビりそうだけど、それに挑戦することによって次が大きく拓けてきますよね。 そんな「田中くん〜」の音楽ですが、オンエアの中でよく可愛いワルツ(サントラのディスク2:宮野のワルツ)が流れてて、あれを聴くたびに小さな子がバレエを踊ってるようなのが目に浮かんで、ほほえましい気持ちで見てました。 み:ああ、あれね。演奏は別の方に頼んでるんですけどね。 ゆ:そうでしたか。かわいい曲だし、わりとよく使われてたので耳に残って、とても好きでした。それにしてもこの「田中くん〜」の曲数はすごいですね。こんなに幅広いオーダーがきて、悩んだりしなかったんですか? み:幸せな悩みですよね。楽しい…苦しさよりも楽しい悩み。産むのは苦しいですけど、悩むのは楽しい。あと、オーダーが来たことによって、いままで自分が聴かなかった音楽を強制的に勉強しなきゃいけないじゃないですか。それがまた楽しいわけですよ。発見がいっぱいあるので。 ゆ:いいなあ、そういう気持ち。 み:僕のわがままで出来ることは限られてますが、クライアントさんが無理を言ってきたら予算かかってもやるしかない。これやるなら生バンド必要だな、とか。そういう考え方もあるんで、今回の「田中くん〜」はすごい楽しみましたよ。中には「せーの!」で録った曲もあるんですよ。 ゆ:水谷さんのその生き生きした感じが、そのまま曲にも表れてる気がしますね。どれを聴いてても楽しいですもん。 み:これ2クールとか3クールとかだったらわかりますけど、1クールでなかなかこれだけないと思いますよ(笑) ゆ:お話としては毎回その回でだいたい落ち着くんでずっと続いていってもいいようなお話だし、まさか12話で終わるとは思ってませんでしたよ。 み:僕も、それこそサザエさんのようにずっと続いていくのかと思ってました。作る側の気持ちとしては全員、2期は大歓迎だと思いますよ。 ゆ:ほんと私も大歓迎です。だってすごい癒されるアニメだし、曲もこんなにあるんだから、これを生かさないともったいないですよ…! み:いやほんとに。 この「田中くん〜」は 音楽としては古いものを発注されてるんですが、それが逆に新しくハマってるなあと思って。中途半端に80年代とか90年代の音楽を流すと「古い」って感じちゃいますけど、70年代までの音楽って新しく受け取れるから… ゆ:そう、すごく新鮮な感じがしますよね。80年代くらいの音楽だと、私たちからすると「わあ、昭和な感じ」って思っちゃうけど。 み:あはは、そうそう(笑) ゆ:うん、おしゃれですよね。 み:で、その使い方ですが、たとえば殴ったときに当たった音が効果音じゃないですか。殴った瞬間にバシッと音がするのは当たり前でしょ。でも、この監督はちょっとミュージックビデオやPVに近い感覚で音楽を流してるところで何かが起こってる。 ゆ:そのおかげで映像も繋がって見えるっていうか、物語の流れが途切れずに見えるっていうか、そういうのありますよね。 み:はい、そういうのを考える人なので、だから音響監督はトライできるんですよね。 ゆ:そうそう、「田中くん〜」の中で忘れてはいけないのが田中くんが弾いた「ふるさと」ですが、あの曲とかアレンジについて何かエピソードはありますか? み:ああいったアレンジは、簡単な音楽理論で出来るものなのでそんなに大したことはしてないのですが、演出としては面白いですよね。原作が面白いのでそのまま再現するよう心がけました。
〜水谷さんが手がけた中国映画〜
ゆ:とにかくこの「田中くん〜」は中国でもすごい人気だって聞きました。 み:へえ。中国は印税が入らないのでね…(笑)中国が印税が入るシステムになったら、日本の作曲家はすごく儲かると思いますよ。映画もそうなんですよ。日本と違って中国は何にもないんです。 ゆ:じゃあ、その仕事をやった分だけのギャラってことですか? み:そうなんです。印税という概念が中国には存在しないので(笑) ゆ:へえ、国によって色んな違いがあるんですねえ。 映画と言えば、水谷さんは中国の映画を2本…え〜っと「少年班」と「致青春2」の音楽を手がけられてますよね。私ちょっとこの「致青春」って漢字が読めないんですけど(汗)海外のお仕事はこれが初めてですか? み:あ、この「少年班」が初めてですね。 ゆ:そうすると、さっきの印税の話もそうですけど、たとえばオーダーのされ方とか、仕事の進め方なんかで日本と違うなあってのはありますか? み:ハリウッドとか海外ではわりと多いんですけど、最初は映画に既存の曲が乗ってるんですよね。 で、「これを聴いて、これを元に水谷さんが組み立ててください」って言われるんですよ。日本だと表があって、文字と表でオーダーが来るんですけど、向こうはもう映像に音がついてきて、それをこちらで表にする…みたいな。 ゆ:この「少年班」と「致青春2」も、そんな感じだったんですか? み:「少年班」のときは「のんのんびより」の曲が何曲かついてたと思います。あとはまあ、僕の知らない曲がいっぱいついてて…。で、「致青春2」の方は、もともと「少年班」の音楽を気に入ってくれた会社の人たちが紹介してくれて来た仕事なんで「少年班」で僕が作った曲と、あとは「のんのんびより」とかの僕の作った曲がついてましたね。 ゆ:じゃあ、水谷さんの曲を中心にまとめられてたんですね。 ちなみに「少年班」の方はどういうキッカケでお仕事が来たんですか? み:色んな作曲家が自分のサンプルを送って、その中から選ばれたんですよ。 ゆ:あ、水谷さんに指名がきたってのではなくて、水谷さんも普通に応募したってわけですか? み:そんな感じですね。で、僕としては「少年班」と「致青春2」の中から抜粋して1枚のサントラとして出したいなあと思ってるんですよね。 ゆ:ああ、いいじゃないですか。その映画を観れない日本の私たちにも聴ける機会ができるわけですから…中国ではサントラは出してくれないんですか? み:そういう文化がないんですよ。 ゆ:へえ、サントラっていう文化がないんですか。えっと何だっけ…原盤権を買い取ったら、自由に出せるんでしたっけ? み:いや、別に買い取らなくても、たとえば「売上の何%かを渡しますよ」っていう契約条件さえあれば出せるので、個人的に出したいなと思っています。 ゆ:ぜひ! ところで、さっき映像に色んな音楽を貼り付けてきて…なんてお話がありましたが、そういった文化や方法の違いの中で「こういう方法は日本でも取り入れたらいいんじゃないかなあ」というのはありますか? み:もしかしたら日本の方が特別かもしれないんですけど、海外のクライアントっていう立場の人たちの押しが強いです。日本のクライアントは人情とか会話の流れとかを大切にしますけど、向こうの人はもうイエスかノーなんで、クライアントに「ここはこうしてほしいんだけど…」って言われて、こちらが「いや、スケジュール的に無理なんだけど…」って言っても「でも何とかして!」って感じで強引に押し通されますね。 ゆ:ああ、こっちはお金を出してんだから…って感じなんですかねえ。 み:「なんでできないの?」ってなります。 ゆ:それは大変ですねえ。 み:はい、大変です。そういう大変さは日本は導入しないでほしいですね(笑) ゆ:あ、取り入れてほしくない方ね(笑)
〜世界を意識したもの作り〜
ゆ:今後もし水谷さんのところにお仕事の話がきたときに、世界を視野に入れて、どんな感じのものをやっていきたいとかありますか? み:世界中の作品をやりたいです。中国映画をやってみてわかったのは、最終的には心に響く何かがほしいってところは世界中どこも同じなんですよね。作る過程や文化が違うからできあがるものが違うだけで、根底にあるのは一緒なんです。ほしいくくりで言えば、たとえば感動して泣きたいとか、怖がりたいとか、派手なアクションが見たいとかはみんな一緒なので、世界でできるかなと思いました。 あと去年(2015年)…REMIってアーティストのアルバムを録りにハンガリーまでオーケストラレコーディングに行ったんですけど、メーカーが一緒について行ったとかじゃなくて、自分だけで全部プロデュースしたんです。まあ英語ができない分はちょっと不便でしたけど、それ以外ではぜんぜん不便しなかったんで、もう世界共通だなあと思って。
〜夢はライブを開くこと〜
ゆ:1人で全部…しかも外国でって、すごいですね。その経験は大きな自信になるだろうし、今後の水谷さんがますます楽しみですよ。何か今後の夢はありますか? み:まあ自分名義の自分個人でCDを出すとか、ライブをやるとか、色んなプランを考えてたりしますね。 ゆ:自分個人で出すCDってのは、いままでのサントラの中で好きなのを集めるってことですか? み:ううん、そうじゃなくてオリジナルで。そういうのはきっと誰も求めてないので、誰の期待にも応えなくていいんですよ。自分が好きなものだけを作れる(笑) ゆ:おお。そうやって何の縛りもないまま作ったら、またすごいものが生まれたりして。 み:それもあるけど、誰もケチつけられないじゃないですか。たとえば「オリコンで1位を取らなきゃいけない」とか「ファンの期待に応えなきゃいけない」とか何もないので。ただただ好きなもの作って、その結果1枚も売れなくてもいいんですよ。自己満足(笑) ゆ:いいなあ、それ。ところで、どういったジャンルのものになる予定ですか? み:まあジャンルとしてはプログレを出したいんですけど、いまの音楽ってジャンルは関係ないじゃないですか。アニソンっていう謎の言葉がありますけど、あれはアニメのソングであって、音楽のジャンルではないでしょう。ロックでもないし演歌でもないし…でも、皆「アニソン」っていうジャンルで捉えてますよね。 ゆ:単にアニメのオープニングやエンディングで流れるから「アニソン」って言ってるわけですよね。 み:そうなんです。でも、そういう時代だなあと思って。 ゆ:それは是非とも実現の方向でやってほしいですねえ。ありのままの水谷広実さんを感じられる絶好の機会ですよ(*^^*) ほかには何かプランはありますか? み:趣味を音楽にしているってところを前面に出したいんですよね。あとは「これもう古いじゃん」とか「今時これ?」とか言われてもぜんぜん気にしない(笑)僕は僕のやりたいようにやるんで、どんな苦情も受け付けないですよ。何か言われても「じゃ、聴かなくていいです」ってね(笑) ゆ:僕が好きでやってることなんだからって?(笑) み:そうそう(笑)そういうものを作りたいんです。 |
先ほどに続きまして「田中くんはいつもけだるげ」のサントラの2枚目にもサインしていただきました! オンマウスでサインの部分がアップになります(*^^*) |
〜曲作りの合間の気分転換の方法〜
ゆ:そういえば、さっき「幅広いオーダーに応えるのは幸せな悩み」ってお話がありましたが、それでもなかなか思い浮かばないで困ったりしたときもあると思うんですけど、大体どういうときに曲が浮かぶんですか? み:僕はどちらかというと、ふと浮かぶタイプではないかも。 ゆ:ああ、じっくり考えて考えて生まれてくるって感じ? み:そうですね。構想を常に練ってるって感じかもしれないですね。 ゆ:なるほどねえ。じゃあ、気分転換の方法とかは?ぶらっと散歩に出るとか? み:あ、散歩はいきます。気分転換に散歩は行くんですけど、ずっと引きこもってて散歩に行くと、それで疲れちゃうんですよね(笑) ゆ:何か、おじいちゃんみたい(笑) み:いや、ほんとそうですよ。だいたいお腹が減ったら散歩するわけですよ。で、散歩して疲れて、その散歩した先で何か食べて帰るとお腹いっぱいになって、それでまた疲れちゃうんですよね。で、もう曲作らなくてもいいかなあ〜とかなっちゃって(笑) ゆ:そうか、仕事を進めるための気分転換のはずが、仕事放棄っぽくなっちゃうんですね(笑) み:そうなんですよ。だからほんとにもう時間のないときなんかは散歩は逆に控えて、食料を買い込んでやりますね。 ゆ:おお、もうほんとの引きこもりですね。あ、そういやおうちでも録音できるなんて言ってましたが、ブースみたいなのがあるんですか? み:まあ本格的なスタジオとはちょっと違うんですけど、簡易ブースがあります。
〜最近の録音事情と譜面を通して伝えること〜
ゆ:そういえば最近は大きなスタジオで同録するよりも、小さいところでセクションごとに録ることが多いみたいですね。 み:そうなんんです。お金も時間もないので、いちばん効率のいい方法を考えると、セクションごとに録るのがベストなんですよねえ。 ゆ:その短い時間で何十曲もこなせる日本のミュージシャンのレベルの高さもよく話題になるところですよね。あんな曲数を初見で…せいぜい2回とか3回とかでしょ? み:テストがないときもありますからね。 ゆ:ねえ、それがすごいですよね。それでやれちゃうんですから。 み:そこはやっぱり譜面とかで、どれだけ伝えるかも大事ですよ。 あと僕の場合は、映画とかだと映像を見ながら弾いてもらうんです。たとえば僕が「◯小節目からは音量をアップしたいです」って言うとミュージシャンの皆さんもそれを受け取って演奏してくれるんですけど、それを言葉だけじゃなく映像と合わせてみると「あ、主人公が振り向いて、ここで感情を出すから…だからここで大きくしたいんだな」っていう意図が演奏者に分かるじゃないですか。大きくしたい理由をちゃんと理解して弾くと音の上げ方も変わってくるので、映画の場合はスタジオで皆が映像を見れるようにしてほしいって頼みます。 ゆ:それはいいですよねえ。譜面だけで見るよりもはるかに多くのものが伝わるでしょうから。 み:ただ、1クールものだとそういうことができないので、僕は映画の方が作りやすいですね。
〜憧れの作曲家さんとゲーム音楽のお話〜
ゆ:憧れてるとか、尊敬してる作曲家さんっていますか? み:まあ、それは難しいですよねえ。昔は色々いたんですけど、だんだんいなくなってくるんですよね。 ゆ:それはやっぱり自分で色々と勉強していくうちに分かってできちゃうようになってくると、感じるものが変わってくるってことじゃないんですか?じゃあ、小さいころは? み:どうだったかなあ。僕はやっぱりドラクエが大きかったかなあ。 ゆ:ああ、すぎやまこういちさん? み:うん、やっぱりそこかなあ。初めて買ったサントラはドラクエだったと思うんですよ。あとは…色んな番組の主題歌とか好きでしたけど、「ロードス島戦記」っていうアニメがあって、それがすごく好きでしたねえ。 ゆ:おお! ロードス島戦記っていうと、和田薫さんが音楽やってた「ロードス島戦記〜英雄騎士伝〜」ですかね?1998年に放送してたものだったら、私も好きだったなあ。 み:あと、ゲームで「ウィザードリィ」っていうのがあって、羽田健太郎先生の音楽だったんですよ。 あのころはRPGやファンタジーの世界観=クラシックやバロック、あとはケルトミュージックがオンリーみたいな時代だったなあ。ファミコンの存在でそこが壊れていって、ファイナルファンタジーのようなもっとポップな意味でのオーケストラがゲーム独特の世界で進化していったし、「女神転生」みたいなヘヴィメタルをファミコンのころから取り入れたりとか、色々と幅が出てきましたよね。 昔…子供のころはそれがバッハだとは知らなかったんですけど、バッハの音楽が好きだったんです。バッハからベートーヴェン、ショパンあたりまでが好きでしたね。 クラシックってのは学校の音楽室に肖像画のある人の音楽だって思ってたんで、ファミコンはそんな僕の中で革命が起きました。チャイコフスキーの音楽をそのまま使ってるゲームとかありまして、それをクラシックだとは知らずに「なんていい曲なんだろう」って思いながら聴いてたんです。 で、さっき話した「ウィザードリィ」ってゲームの曲もバロックだとは知らずに「なんていい曲だ」って思って聴いてたんですね。当時はサントラとか出てなかったんで心の中にずっと残ってるって感じだったのが、大学生くらいのときに改めてそれを聴いて「あ、バロックだったんだ」と気づいたわけです。
ゆ:ああ、子供心に強く残ってて、大人になってから「何だ、そうだったのか!」っての、けっこうありますよね。まあ、これは音楽に限った話ではないですが…。私は初代のファミコンくらいしか知らなくて、しかもRPGみたいにゆっくり進むのは苦手で、やった!やられた!がはっきりしてるスーパーマリオとかばっかりやってましたねえ(笑) み:そう、スーパーマリオもいま聴けばラテンミュージックですけど、そのころは何も知らずにファミコンミュージックとして聴いてたんですよね。 ゆ:ほんとそうですよね。 とにかくあのメロディが強烈に印象に残ってて…まあそれだけゲームをやってたってのもありますが、気が付いたら鼻歌で歌ってるなんてことがよくありました。 み:そうやって音の存在ってのは皆が意識してる。子供のころは音楽がついてて当たり前って感じで特に意識してないですけど、大人になると…特にこうして作り手になると、それがどれだけゲームやアニメやドラマのクオリティに大切なものか分かりますよね。 ゆ:ですよねえ! 子供のころはただゲームと一緒に自然と体に入ってきてるって感じなんですけど、それがなくなるとゲームを楽しむ気持ちもグッと減ると思うんですよね。 み:退屈なゲームって、意外と音楽も退屈だったりするんですよ。逆に面白いゲームほど音楽も面白い。 ゆ:やっぱり気持ちの乗りようも変わってきますよね。 み:そう、ぜんぜん違うんですよ。だから、そこの演出も含めてものすごく音が重要なんですよね。
〜「ご職業は?」と聞かれて…〜
み:ところで、ときどき「職業は何ですか?」って聞かれるんですけど、そしたらもう答えようがないんで「作曲家です」って答えてるんですけど、皆きょとんとしますよね。作曲家って何するんですか…みたいなね(笑) ゆ:書いて字のごとく、曲を作る人なんです!ってね(笑) でもまあ一般的にはスタジオミュージシャンとか作曲家って言葉は、確かにピンと来ませんよねえ。 さっき「クラシックは音楽室に肖像画が…」なんてお話がありましたが、私もこのHPを始める2年くらい前まではスタジオミュージシャンなんて言葉は知りませんでしたし、サントラとか好きで買ってたわりには頭の中で作曲家とかミュージシャンとかがリンクしてなくて、作曲家は音楽室に肖像画が並んでる人って認識でした(笑) み:やっぱりそうですよねえ(笑)
〜楽器のお話〜
ゆ:キーボード以外には何か楽器を演奏されるんですか? み:ああ…ギターとかベースとか、トランペットもありますし、ヴァイオリンもチェロも持ってるんですよ。でも、自分でそれを演奏してどうこうするってのではなく、楽器の構造を知るって意味もありますし、あとはただ単に好きで…コレクターとはちょっと違うんですけどね。 ゆ:なるほどね〜! 楽器の構造を知るってのは大事なことですよねえ。それこそ楽器の構造や運指を知らずに書いてきた人の楽譜に、現場で指変え等で苦労した…なんて話もありますもんねえ。 み:ああ…ただそこは何とも言えないところがあるんですよね。実は! 現代の作曲家に限らずクラシックの作曲家にも共通して言えることは、作曲家が楽器を知らないから楽器が進化したってところがあるんですよ。楽器やミュージシャンに無茶をさせるから、その作曲家に応えるために皆が頑張ってテクニックを磨いてるんです。クラシックの時代から。 昔のホルンは倍音しか出なかったけど、ベートーヴェンは書いちゃう。でも、演奏家は演奏できないんですよ。で、ホルンが進化して、いまのようにできるようになるんですよ。だから楽器を知るっていうのは楽器の限界を知るってことで制限になるんで、いいとこと悪いところがあるんですよね。 ゆ:なるほどねえ。これは面白い、いいお話を聞きました。じゃあ、まあ音域の確認くらいですかね。 み:うん、まあそうですね。だから演奏のうまい人ほど、文句は言わないです。 ゆ:ああ、「よし、この壁を乗り越えてやるぞ!」みたいな? み:そう「この壁、前にもぶつかったな。あのときは確かこうやったらできたな」ってのがベテランさんほどあるので、トライしてきてくれるんです。 チャイコフスキーの曲の中には88鍵を飛び出てる音符を書いてるのがあるんですけど、出版されてる楽譜にはそこをカッコでくくって書いてるんですよね。でも、僕は当時チャイコフスキーはカッコして書いてないと思うんです。その音がほしくて書いてるだけだと思います。 ゆ:なるほど。限られた時間の中で録音を終わらせなければいけないスタジオでの録音においては「ミュージシャンが見やすい楽譜」「演奏しやすい楽譜」を意識することも大事なことだとは思うんですが、ときには挑戦しあう関係であることが音楽のさらなる進化につながるってことなんですね。いやあ、深いなあ。
〜劇伴の中で挑戦してみたいこと〜
ゆ:じゃあ今度は劇伴のお仕事の中で、今後こういうのに挑戦してみたいとか、こんな楽器でこんなことやってみたいとかありますか? み:僕はこれまで「のんのんびより」とか「田中くんはいつもけだるげ」みたいな日常アニメに、「トリコ」のようなアクションもの、「地獄少女」みたいなホラーもの…と、いろいろ関わらせていただいてきたんですが、今度はちょっと渋いアニメの音楽をやってみたいですね。 あと、これはアニメの劇伴やってる人の共通の目標の1つだと思うんですけど、ジブリとかルパンのような、ずっと残る曲を作りたいですね。 ゆ:ああ、誰もが必ず一度は耳にしたことがあるくらい広く知られてて、ずっと愛され続ける曲ですね。 み:はい。まあ「ほんとにあった怖い話」はちょっとそういうところはありますよね。 ゆ:そうですね。あの口笛を聴いたら「もうこの季節が来たかあ」って思うくらい、もう広く染み渡ってますよね。 み:そんな感じで、たとえばルパンのテーマが流れたら皆がワクワクするみたいな、ああいうものをやりたいですね。
〜声優さんとのコミュニケーション〜
ゆ:ところで、水谷さんはアフレコをのぞきにいったりしますか? み:たまに行ったりしますね。まあ、ただの傍観者としてですけどね。「のんのんびより」は何回か行ったなあ。 ゆ::へえ♪ 声優さんたちと何かお話されたりするんですか? み:僕は、いいものはいいと伝えたいんです。だから言える機会があれば「あのシーンの演技、素晴らしかったです!」とか言うようにしてます。 ゆ:わあ、声優さんとしてはテレビ越しのファンやイベントに来てくれるファンからの応援はもちろん嬉しいでしょうけど、やっぱり身近で見てくれてる…作品を一緒に作り上げてる人からの声ってのはとても励みになるでしょうねえ。素敵です。そして、いいものをいいとちゃんと伝えるってところに水谷さんのお人柄が見えますね(^○^)
〜今後の作品について〜
ゆ:そのほかに今後どのような作品を手がけられる予定がありますか? み:東映さんから12月23日に全国でロードショーされる「ポッピンQ」ってアニメはぜひぜひ見てほしいと思います。音楽、素晴らしいと想います。 ゆ:ほぉ…では、その音楽の聴きどころとか、こだわりどころなどを聞かせてください♪ み:それは、、、観てそれぞれ感じていただけたら(笑) ゆ:では最後に、ファンの皆さまに何かメッセージをお願いします。 み:これからもいろいろな音楽作って、できればライブなどなどもしていきたいと思ってますので、よろしくおねがいします〜!
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いかがでしたか? こうして雑談も交えつつ幅広く色んなお話を聞かせていただけたことで、水谷さんのお人柄やお仕事への姿勢などがわかっていただけたんじゃないでしょうか。今後のお仕事はもちろん、ライブやオリジナルCDというのも楽しみですね♪ 水谷さんのこれからのご活躍については、ぜひ公式サイトやブログやツイッターをチェックしていってくださいね(*^^*)
2016年12月6日 |
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