〜読売テレビ・チーフプロデューサー 諏訪道彦さんに聞く〜

(後編)

 

 

2013年の春にちょっとしたご縁ができて諏訪さんのお人柄にとても惹かれたこと、そしてその秋に実現した音響監督・長崎行男さんとの対談「音響監督さんのお仕事Q&A」の中で諏訪さんのお名前が挙がったことで「これは是非ともちゃんとお話を伺ってみたい」と思い、今回の対談を申し込んでみました。

すると、2014年4月25日…この日の午後から諏訪さんは映画「名探偵コナン 〜異次元の狙撃手〜」の舞台挨拶のために大阪に向かわなければいけないという大変なスケジュールの中で快く引き受けてくださり、長崎さんに引き続き奇跡の対談が実現しました\(^o^)/

前編では諏訪さんの小さいころの様子からこれまでに歩まれてきた道のことを、この後編では諏訪さんが関わられた作品や今後の日本のアニメ界のことなどについて語っていただきましたので、どうぞご覧くださいo(*^^*)o

 

前編は→こちら

 

 

☆諏訪さんは「、私は「」で表記します☆

 

 

〜ロングランアニメと「名探偵コナン」について〜

 

ゆ:ところで、先ほど「最近はアニメの数が多くて…」というお話がありましたが、ほんと最近はロングランのアニメが少ないですよね。それは何故なんでしょう?

す:ほんとに1クールで終わってしまう場合や、とりあえず1クールやって半年後に2期をやるっていう戦略の場合とか色々あると思うんですけど、いずれにしても1クールをやって、そのリアクションで次を考えてるんじゃないですかねえ。ほんとはみんな1年とかやりたいと思ってると思いますよ。でも、最近のアニメーターさんはすぐ次の仕事が決まっちゃって忙しい人が多いんで、「コナン」みたいにず〜っと「コナン」ばっかり描いてるって人は最近では珍しいですね。

ゆ:なるほど…最初から1年とかの枠を組むんじゃなく、とりあえず様子を見ながらって感じなんですね。

す:コナンだって、最初はそんな続くと思ってませんでしたからね。特に最初の映画なんてテレビ放送から1年3ヶ月で公開したけど、そのときに誰も2作目があると思って作ってませんからね。だから2作目のために取っとくなんてことは考えてなくて、いつも全力投球。そのときに出来ることを全てぶち込むってところですかね。

青山先生は映画に関してすご〜く理解があって積極的な方で、今度の映画も「このネタを…」って映画で最初にお見せするようにくださったんですよ。黒ずくめの組織もFBIも全て青山先生の頭の中にある世界で、僕らは何1つ新たに付け加えられないんです。

ゆ:だから「コナン」の映画って、いつもあんなに迫力があって、色々と仕込みもあって面白いんですね!ところで、テレビ放送と劇場版とのプロデュース面での違いとかありますか?

す:ベースはやっぱり毎週のテレビですね。役者さんも含め、毎週そこを大事に作り上げていく。その先に映画という大きな花火があるってことですね。映画はお祭りです。

テレビ放送も映画も物作りに関しては一緒で、映画の方が偉いってわけじゃない。でも、テレビ局としてビジネスの面から見ると、映画の方がよりギャンブルビジネスですね。テレビは数人が乗ってる小舟で小回りも利くけど、映画は豪華客船で乗り出したら曲がれない、戻れない(笑)

ゆ:あはは!それだけ多くの人の手や思いが入ってるってことなんですね。

 

す:コナンの中で自分が1番やれたなあってことは、フォーマットですかね。30分の頭から最後まで「番組の形」を吟味しまくりましたから。

頭にアバンで「たった1つの真実を見抜く」ってナレーションを入れることや、そのあとどうやってCMから本編にいくのか、予告には次回のどのシーンをどう入れるのか、その予告から「Next Conan's HINT」へは?…と全てこだま兼嗣監督と相談して「そっちがやれないことはこっちがやる」って感じで分け合ったんで、アバンとヒントの原稿はいまでも僕らが書いてます。

ずっと僕が書いてたけど、最近は米倉功人ってのが書いて僕がチェックって感じかな。とにかく、そういう参加の仕方ってのはすごく大事だと思うんですね。

ゆ:そうですね。先ほどの話でも出ましたが、現場の中身をよく知らずに「はいはい」ってOKしちゃうわけでなく、諏訪さんご自身のその目その手で関わるってのはとても大事なことですよね。

 

〜「魔法騎士レイアース」と主題歌の重要性について〜

 

ゆ:ところでプロデュースする作品というのは、ご自身が「僕はこれをやる!」って言うんですか?それとも会社から「これやってね」って言われるんですか?

す:どっちもありますよ。「魔法騎士レイアース」なんかは会社から言われましたね。「コボちゃん」のあと「レイアース」までの半年は僕はアニメはやってなかったんです。まあ、僕がやりたいものがあって希望を出してたんだけど通らなくて、代わりに「レイアース」の話が来たんですよ。最初は「うわ、女子ものかあ…」「えっ『なかよし』かよ…」って思ったんですけど、そのとき僕は35歳で「この歳で現場をやってないのって問題だなあ」と思って「じゃあ、僕がやっていいんだったらやらせてもらいます」って言って引き受けたんです。そのレイアースチームがのちにコナンにつながりますからね。

ゆ:うわあ、レイアースにそんな裏話が…私、松尾さんのあの音楽がほんっとに好きなんですよ〜!

す:(強く頷いて)うん!松尾さんの音楽、いいよねえ!
会社から「レイアース」の話が来たときに「どうせやるんなら」って「CLAMP」さんっていうすごい方々いるところに頼んで、オープニングも頑張りました。「ゆずれない願い」っていう田村直美さんの素晴らしい曲があるんですけど、あれは会心の歌になりましたね。

ゆ:あれはもうアニソンの代表曲みたいになって、いまでも愛され歌われ続けてるいい歌ですよねえ。私も大好きです!

す:うんうん!あれ、倉木麻衣さんが出るまでは、唯一「紅白」で歌ってもらった僕が担当したアニメソングなんですよ。

ゆ:そうでしたか…!
いやあ、メロディもアレンジも、そして田村さんのあの力強くのびやかな歌声も…ほんと、どこを取っても素敵な曲だと思います(*^^*)

あ、そんなお話が出たところで、今度は主題歌の重要性についてお聞きしてみたいと思います。最近はタイアップも多いですけど、そのあたりも含めて諏訪さんの感じてることをお話していただければ…

す:タイアップは仕方ないですよね。こんな言葉は語弊があるかもしれないけど、でも…何ていうか、タイアップは強姦されもしないし、しもしないっていうね。そこだ大事だと思います。

たとえば「こういう方向で作ってください」ってのは違うと思うんですよ。逆に「タイアップでこれを使ってくれ」ってのも違うと思う。アーティストと作り手、そのお互いのことをリスペクトすること…アーティストのパワーがあって、物作りチームのパワーがあって、それらが交わって「結び」であるべきであって、交わった1点だけ大事にしろってのではもったいないですよね。

あと、やっぱり一番最初の曲が大事ですね。「レイアース」「コナン」「犬夜叉」など、一番最初の曲がどうなるかで、左右してくるものがいっぱいありますよね。まあ、これも縁ですからねえ。その「ゆずれない願い」にコナンの「胸がドキドキ」、それに犬夜叉の「CHANGE THE WORLD」どれもほんといい曲と出会えて良かったと思っています。

ゆ:いわゆる「つかみ」ってことですが、確かに新しく始まったアニメを色んな期待いっぱいで見て、その主題歌がどうかでアニメに入り込んでいく気持ちにも大きな変化があるように思いますね。

 

今回の対談ではとにかく諏訪さんという方に迫ってみようと思ってたんですが、まさかこんなにも詳しく…そしてアニメ界の歴史を辿れるような貴重なお話まで聞かせていただけるとは思ってなくて、ほんとに感激です(*゚▽゚*)

漫画やアニメのことを語るときの諏訪さんの表情がとても柔らかくて、素敵でしたよ(*^^*)

写真は廊下の様子です。
読売テレビ制作の番組ポスターがたくさん飾られてました♪

 

〜劇伴の録音やアフレコ、プロデューサーさんはどこまで立ち会う?〜

 

ゆ:ところで、プロデューサーさんは劇伴の録音なんかには立ち会いますか?

す:劇伴の録音は…まあ行かないことはないけど、ずっと一緒にはいないですね。この前あった「金田一」の録音のときに和田(薫)さんに「ここ、ちょっと変じゃない?」って聞かれたんだけど、とんでもない!ぜんっぜん分からないし、それに対して僕が何かを言うのは無意味。それはもう音楽チームに任せて、僕は僕にできることをやる方がいいと思ってます。でも、一度はちゃんと顔を出して「来たよ〜♪」とは言いますよ。

劇伴はまあそんな感じだけど、声優さんのアフレコには言葉のチェックをするのに立ち会いますね。

ゆ:言葉のチェック…ですか。具体的にはどんなことでしょう?

す:たとえばコナンで言うと、なるべく「死体」って言わずに「遺体」って言うとか、「青酸カリ」じゃなく「青酸系の…」って言うとか、そういうのをチェックします。でも、どれだけ現場でチェックしても、やっぱりすり抜けちゃうことがあるんですよ。それが最終的なV編(スタジオでの映像編集作業)のチェックで見つかったところで、引っかかった部分の声優さんを呼んで差し替えってのは、そうそう出来ることじゃない。だから、アフレコはみんなで台本を見ながらチェックしますね。演技指導とかは長崎さんが言ってたように、音響監督さんや監督の仕事ということで。

ゆ:へえ。見てる側には気づきにくいですが、そうしたこだわり…というか、気遣いがたくさんあるんですね。

す:あ、コナンでは「血は赤じゃなく黒く」って決まりもあるんですよ。あとは、今回の韓国の船のこと(セウォル号沈没の件)があったら、船の話はどうなのかな…とか、そのときそのときの色んな事情も鑑みたりしてますね。

ゆ:なるほど…不特定多数の方の目に留まるものだから、ほんとこれでもかってくらいに色んな気遣いが必要になるわけですね。

ところで、ときどき諏訪さんをモデルにしたキャラが出てきますが、そうやってご自身のキャラが出ることについてはどうですか?

す:オリジナルのとき(広島宮島七不思議ツアー・世界一受けたい授業事件など)に上諏訪って名前で出てますよね。ぜんぜん似てないけど(笑)だいたい僕は最初に登場したとき(第31話:テレビ局殺人事件)松尾貴史さんに殺されて死んでますからね(笑)

ゆ:あははは、やられてましたねえ(笑)

す:でも、ああやって出ることは嬉しいですね。青山先生なんか原作の中でも描いてくれてたりして、ほんとありがたいことです。ただ、出すことに力を入れるんじゃなくて、出れてラッキーみたいな感じかな。ほかの俳優キャストさんなんかもそうだと思います。出たことによってマイナスにならないように…スペシャリストがやってるところを邪魔しないようにって言われますからね。

 

〜キャスト選びについて〜

 

ゆ:そういえば「コナン」は…というか、これは他の作品でも言えることですが、最近は原作の読者やタレントを声優として使うことが多いですよね。

す:パブリシティ上で必要があれば、やることがありますよね。これはテレビ局主導でやることが多いかな?まあタイアップですよね。

今回の映画「異次元の狙撃手」ではパックン(Patrick Harlanさん)なんかが出てますが、そらもう英語だから見事なもんですよ。選んで良かったと思ってます。去年の柴咲コウさんなんかもね。普通に聞いてたら「上手な声優さんですね」って言われるくらいに溶け込んでる。

ゆ:はい!私は今年の映画はまだ観れてないんですが、去年の映画での柴咲コウさんはお上手だなあと思いました。とはいえ、本職の声優さん以外を使うことに厳しい声もありますよね…。

す:声優ってのは一般視聴者にダイレクトに分かる一番の表面ですから、とても大事にしてるんですよ。あえて違和感を選んでるわけではないんです。で、こちらは「これだ!」「いいな!」と思ってやってるんですが、ときどき出目が反対になったりすることもありますねえ。

ゆ:そうですねえ。かくいう私も「何で〜!?」って思うことは多々ありますが、逆にタレント声優さんの新たな可能性に気づかされることもあって、まあ難しいところですね(^^ゞ

 

写真に写ってる「コナン新聞」やノートは、諏訪さんが「お土産に…」と下さいました。オンマウスで新聞を開いたところが見られますよ♪

この新聞、ほんっと内容が幅広くて濃いですねえ!
諏訪さんのインタビュー記事なんかは今回の対談とリンクするところがあって、とても興奮しながら読ませていただきましたo(*^^*)o

 

〜諏訪さんの目から見た劇伴作曲家さんたち〜

 

ゆ:ではちょっと方向を変えて…というか、私のHPは劇伴にスポットを当ててるんで、その作り手である作曲家さんについても伺いたいと思います。いままで関わってこられた作品で、その劇伴を書かれた作曲家さんとのとの思い出話など聞かせていただけますか?

す:和田(薫)さんの仕事量は、恐るべきものがありますね。今回の「金田一」もそうだし、僕がやってる「スワラジ」ってラジオ番組の曲も作ってくれてるし…引き出しが多いっていうんですかね。音楽に関しては丁寧ですけど、色んなことを上手に流していける人ですね。

今年1月にアイルランドに一緒に行ったとき(和田さんのfbと諏訪さんのfb参照)に同部屋だったんだよね。で、生活リズムもしっかりしてるし、人として大したもんだと思って…。僕は彼の実家の旅館に腐るほど行ってて、しかも行くときは「ただいま」って言って店に入るくらい馴染んでる(笑)この環境でこうなんだっていうのが見える、数少ない友人の1人ですね。

まあ、だからじゃないけど、そこ(劇伴)に立ち入ったらダメというか、立ち入らないことで作曲家の背筋が伸びるってことはあると思うんですよね。「任せたよ!」「任せられた以上は…よしっ!」ってのがあると思う。30分っていう1つの番組の中で、それぞれの立ち位置で視聴者に「面白いじゃん」って言ってもらえるようなものを作ろうよっていうか…お互いに身を削って頑張る、それが楽しいって思えるのが和田さんじゃないかと思うね。

ゆ:わあ、何か戦友って感じですね(*゚▽゚*)
和田さんは懐が広いし深いし、作曲だけじゃなく司会や演説までこなしちゃって、ほんとにすごい人ですよねえ。それでいていつも気さくで優しくて…和田さんがいなかったらいまの私はないとハッキリ言えるくらい、私にとっては大きな存在です。

す:それに対して琢ちゃん(岩崎 琢さん)は完全に身を削ってますよね。身の削り方は和田さんの方が上手。琢ちゃんは匙加減が分かってないって感じかなあ…。でも、そこが音楽の個性として出てくるから、良い悪いじゃない。ただ「琢ちゃん、それ面白いねw」って言ってるだけ(笑)

佐藤世衣さん(岩崎さんの事務所の社長兼マネージャー)も「彼はああいうやり方しかできないからさ…」って言ってるけど、そこがまたいいところなんだよね。

ゆ:そうですね。私もあの何だかんだ文句を言ったり、悪態を付きながらも全身全霊で臨む、岩崎さんのお仕事に対する不器用な愛し方は好きですね。まあ、ときどき自分の気持ちに素直になりすぎちゃうところがあって心配にもなりますけど、やっぱり作家さんとしてとても尊敬しています。そういえば、いまも何か録音やってるんですよね?

す:そうそう。な〜んか、いつまでもやってるよね(笑)このまえも飲み会やったんだけど、それにヘロヘロになってでも出てくるからね。

岩崎さんはこの対談の2日前からアニメ「アカメが斬る!」の録音をやってました→録音レポ

ゆ:あはは!すっごい俺様なところがあるかと思えば、そうやって妙に律儀だったりして…そこもまた岩崎さんの魅力の1つですね(*^^*)

す:あと、レイアースのときの松尾(早人)さんはいつもすぎやまこういちさんの後ろにいて、最初に見たときは「ごつい感じの人だなあ」と思ったんだけど、出てくる音楽がすごい繊細で驚きました。まあ女の子3人が出てくるアニメだからってのもあるけど、ほんとに繊細で綺麗な音楽でしたね。和田さんと違って寡黙な方だったんであまりお話できなかったけど、松尾さんの音楽にも大いに助けられた作品でした。

ゆ:松尾さんもほんとに素敵な方ですよねえ。いままでに怒ったことないんじゃないかと思うくらい、いつもおだやかで優しくて…そういうところがあの繊細な音楽に表れたのかなあとも思います。私の大好きな作曲家さんのお1人です(*^^*)

 

ゆ:そんな作曲家さんたちのスタジオでの姿は、諏訪さんの目にどう映ってましたか?

す:はじめはリーダーぶりに驚きましたねえ。いまのいままで目の前で普通に喋ってた人が「じゃ、ちょっと行ってくるから」って、マエストロみたいなことをやるわけですよ。僕らからすると鎧に兜で向こうの世界に行くのかと思ってたら、スッと行くからねえ。

いまはだいぶ慣れたけど、最初はそこが意外で新鮮でしたね。音楽はある意味で敷居が高いと思ってたので、びっくりでした。

ゆ:へぇ〜!そのあたりの心境とか、作曲家さんご自身に聞いてみたくなりますね。よしっ、そのうち聞いてみようo(*^^*)o

 

〜作品をより面白くするには?〜

 

ゆ:では次に…諏訪さんなりの、作品を面白くする秘訣は何ですか?

す:とにかくマメに手を入れる。結果的にダメでも、とりあえずあれこれやってみる。5月10日放送のコナン(第738話:小五郎はBARにいる〜前編〜)でもやってます。音楽にはテーマバリエーションとかがあるでしょ?我々にもフォーマット的なものがあって、その中で次に何ができるかってことをいつも考えてますね。

ゆ:わあ、そのあたりのことももっと詳しく聞いてみたいですねえ。そういや「結界師」のときだったでしょうか…アニメ本編の放送時間を少しでも長くするために、提供のスポンサー名を本編内でスーパーで流したというのがありましたよね。そんな感じで、ほかに諏訪さんが改革されてきたことはありますか?

す:コナンが最初かな。OPのあとの「名探偵コナンはご覧のスポンサーで…」ってのをコナンの声優さん(高山みなみさん)にやってもらう。たいやきの頭から尻尾まであんこってのと同じで、30分の番組内はずっとコナンなんですよ。それなのに、その途中で他の人の声が入るってのは気持ち悪いと思って…。もちろんスポンサー名を読み上げてる声優さんも立派なプロで、決して下手ではないんですよ。でも、あの30分の中では異質なものに感じてしまう。

これを金田一でもやろうと思ったんだけど、最初は声優さんの事務所が「それは商業行為になるから」って許可してくれなかったのね。そのうちOKがもらえて、いまは普通に金田一の声優さん(松野太紀さん)が読んでるけどね。まあ、そういうこともありました。

提供のバックがブルーバックなんてもうありえない。映画のEDも最初から黒バックにはしない。歌が終わったあとに何かをつける…提供をその番組のキャストに読んでもらうってことが、次第にそういうところにつながっていったように思いますね。

ゆ:なるほど…決して現状で満足しない。常に新しい可能性を探して、失敗を恐れずにあれこれ試していくってことなんですね。これは誰もが倣うべき大事なことだと思いますねえ。

では、作品を良くするために最も大変な作業は何ですか?シナリオ開発?作画?キャスト選び?

す:やっぱりシナリオが1番ですよ。その次は…っていう順番はないですね。完パケ(きちんと編集され、もう放送できる状態になってるもの)が上がってきてもまだ「もっとここにナレーションを入れたらどう?」なんて言うこともあるけど、基本的にはそれぞれの現場に任せるしかない。でも、シナリオには必ず目を通し、手を入れます。

シナリオと、あとアフレコは僕は絶対に欠かさないので、その2つには入ってます。まあ僕は2つだからできてるってところもあるかな…ほかのテレビ局のプロデューサーはもっと色々やってる人もいて、大変だなあって思いますよ。

いま「誰が作るの?」「誰が描くのよ?」ってくらいアニメの数が増えてるでしょ?1クールものは全然悪くないし、僕はどんどんやればって思うんですけど、それにしても数が多くて疲弊しちゃう感じ。もうちょっと企画も切磋琢磨っていうか、セレクトしていくべきなのかなあと思いますね。

ゆ:確かに、視聴者の方も「見たいと思うものがたくさんあって、ありすぎて選べなくて、結局ほとんど見れてない」なんてこともあるようですよね。

 

〜世界に広がる日本のアニメと「犬夜叉」のこと〜

 

ゆ:そんな日本のアニメですが、いま世界での人気もすごいですよね。もしかして、最初から世界進出を意識してアニメを作るんですか?

す:前はそういうのもあったけど、いまはしてないって言ったほうがいいかもしれない。まずは日本で、そこで楽しめるものを作る。いま色んなアニメが世界を舞台に展開してるけど、どれも最初からそんなこと意識してないでしょ?最初に志を高く持って作っておけば、自然と世界が認めてくれると思うんですね。それを「クールジャパン」とか言って、それを旗印に押し出そうとすると何かが曲がるんですね。売り込むのは大事だけど、それはまた次の話だと思います。まずはクオリティがあって、話も面白いものを作ることですね。それが結果的に世界にいければいいなあってことだと思います。

ゆ:うんうん、狙いすぎると…ってやつですよね。

す:世界進出してる先輩方の作品はとっても尊敬しますが、だからと言って「じゃあ、僕らもこれから生み出します!」ってのは違うと思います。結果的にできたらラッキーみたいなもんですかね。いまはまずこの日本で視聴率が取れるとか話題になるとかで、人気があることを大事にしていきたいと思っています。

「NARUTO」みたいな和風のものが世界にいくってのは、昔の海外の教科書にある「日本には侍がいたり、ちょんまげしたのがいる」ってのを上手く逆手に取った結果ああなったわけですよね。あと「犬夜叉」なんかもそう。最初はあんなに世界にまでいくとは思ってないんですよ。

ゆ:「犬夜叉」は和田さんの音楽の力というものも大きいですよね?

す:(力強く)うん、そう!絶対にそう!
もちろん高橋留美子先生の描くキャラの力というのもあるんですが、あの和楽器をたくさん使った和田さんの音楽の魅力はとても大きいですね!

僕は「犬夜叉」の前に「金田一」で和田さんとやってて、和田さんの家にも行くくらい仲良しだったけど、実は和田さんがあんな和の音楽を書く人だって知らなかったんですよ。「金田一はサスペンスものだけど、犬夜叉は大河っぽいなあ。和田さん、大河的なのはどうかな?」って思って和田さんに電話したんです。それで出来上がってきたのを聴いて、和太鼓や和楽器がいっぱいあって「ああ、和の人なんだ!」って知ったくらいで…いかに自分が勉強してなかったかと思って「申し訳ないm(_ _)m」って謝ったくらいなんですよ(笑)

ゆ:でも、逆にそれが良かったのかもしれませんね。もし和田さんの音楽の特性を知ってて「この作品に和は合わないかもなあ」みたいに選んでたら、この偶然の奇跡はなかったわけですもんね。

す:そう、ほんとこれがいい縁になって。
出会った人と作品との適正な取り組み方…それができればいいのかなあって思いますよね。和田さんって人が好きで、この人と一緒にもっと仕事がしたいって思って電話したからね。

ゆ:わあ、素敵ですね!
私があのHPを始めたキッカケは和田さんの犬夜叉の音楽だったんで(こちら参照)、ほんとこの偶然と奇跡には感動ですし、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。

す:だから僕らも「この人に原作を渡したら面白い作品にしてくれるかもな」なんて思ってもらえるような人間になることが幸せなことかもしれませんよね。まあ、そんなのはそうそういませんけど、でも「宮崎駿さんにアニメを作ってほしい」って思われるくらいの信用度を目指したいと思っています。

 

「土曜日の1時間枠を宇宙兄弟とコナンでやって、次に金田一とコナンでやって固めようっていう目論みがあるんです」と語る諏訪さん。

「宇宙兄弟」→「コナン」のときも、あの夢と希望と人間ドラマのあとにミステリーと、そのバラエティーの豊かさをとても楽しみましたが、いまの「金田一」→「コナン」のどっぷりミステリーアワーってのもいいですよねえ。うちはもうすっかり固められてます(笑)

 

〜オリジナルアニメと最近のアニメについて〜

 

ゆ:その宮崎アニメと言えばオリジナルですが、そうしたオリジナルアニメはジブリ以外ではあまり作られていませんよね。何故なんでしょう?

す:すでに漫画やライトノベルとしてあるものは共通認識があるから見せやすい…でも、オリジナルは定着するまでに時間がかかりますよね。テレビで1年かけて放送してようやく芽が出るってのでは、いまのスピードに間に合わないと思います。どんなにすごい監督がやっても、そしてもちろん色々と仕掛けをしたとしても、視聴率が取れるかというと…。

2012年に放送した「輪廻のラグランジェ」は、読売が初めて挑戦したオリジナルだったんじゃないかなあ。もっと生かしたかったんだけど、まあまあ…って感じだったんで、次にまたってところまではいかなかったですよね。

だから原作がけっこう売れてて、それを裏切らないものをプロデューサーが作って、お互いの相乗効果を狙うってのが、いまの主流なのかなって思います。でも、今後もうひとつくらい何か新しいものを開発したいなあとは思いますね。

ゆ:うんうん、その新しいものというのに期待がふくらみますね!
ところで、さっき「アニメ化させてくれるかどうか、まず出版社の門を叩いた」というお話を聞かせていただきましたが、最近はどんな感じで1つのアニメが作られるんでしょうか?

す:テレビ局は外から持ち込まれる企画が多いですね。まあ「宇宙兄弟」はうちの永井幸治ってのやりたいってのでやったんですが、あれは大成功作品ですよね。でも、多くの場合は外から話が来ます。

いま「コナン」も「金田一」も編成費でやってて、製作委員会でやるものではないですね。テレビ局がちゃんとお金を出して、いいものを作って放送して、二次使用は各社と契約をしてやっていく…それが僕が「企画」って名前を出してやってるやつなんですよね。

ゆ:自分のところでお金を出して…ってのが、背筋が伸びてよりよいものを作ろう、作れるってことにつながっていくのかもしれませんね。

す:昔はそうだったんですよね。「アトム」も何もかもテレビ局がお金を出して作ってて、二次使用なんか考えてなかったですよね。そういう編成主導型ってので続けれる限りアニメは発展していけるかなって思ってます。

ゆ:最近のアニメについて、何か感じられてることはありますか?

す:いま1クールで、ミニ枠も入れると新タイトルだけで40以上あるんじゃないかな。その中で「このクールの注目アニメだ!」なんて言ってるのを見ると「ドラマかよw」って思っちゃうね。ほら、各局がやってる連ドラの中で選ぶ、みたいな…。で、そういうふうにして選ばれなかったアニメはどうなのって思いますね。

僕はアニメにはそれぞれ色んなジャンルがあって、見れる方はできるだけ多くの人に見てもらいたいって思ってるんですよね。ほかのスタッフもそうだと思います。あと、漫画をアニメ化するというのは漫画家さんにとって1つの勲章みたいなものだし、漫画家さんの中にはアニメ化されることを目指して描いてる人もいるでしょうしね。

別に高いところから言ってるわけじゃなくて、それは「こんなに面白いものをどうやって皆さんに伝えていくのか」ってことを、漫画、映画、アニメ、ゲーム…と、みんなそれぞれの方法でやってるわけですから、業界としてはほんとはいい話だと思うんですが、見るお客さんたちの夢を壊さないように、キャラを毎週順調にお送りしていくってのが大変で大事なと思ってます。

 

〜これからのアニメ界について〜

 

ゆ:では最後に…これからのアニメ界はどうなってほしい、どんなことをやっていきたい…と思われてますか?

す:テレビアニメってものに対しての視聴者の信頼をもっと得ていきたいですね。僕の場合は小さいころに見た漫画やアニメにエネルギーや勇気をもらって、それがいま役に立ってるんですよ。そんな感じでアニメ以外でも…たとえば本でも映画でも、ある世代のときに見たものが、のちのちの人間形成になる宝になると思うんです。そういう宝を打ち続けていきたい。

どういう宝になるかは人によって違うから分からないけど、少なくとも我々はそうだったし、それをもとに我々はチームで作ってます。それを受けた人たちがエネルギーに感じてもらえる、「昔はよかった」じゃなくて、「昔よかったことが、今のよかったにつながる」そういうのを作りつづけていきたいなあと思ってます。テレビのコンテンツはそうあるべきだなと思います。お客さんがいてからこそ作ってるわけだから、良い影響を与えたい。「いいもん見たね!」「楽しかったね!」ってのを与えたい。アニメ業界はこれを続けていくべきだなあと思います。

ゆ:素敵ですね!
そう、私もアニメから得たこと学んだことで「いま」があって、その「いま」が本当にいいなと思えてる1人ですもんね。

す:僕が思うに、原作は豪華なスポンジケーキだと思うんです。スポンジケーキって、本当に良いものはそれだけで美味しいじゃないですか。そういう感じ。で、それを苺とか挟んでデコレーションするのがアニメ側の仕事。綺麗に見せて、もっと美味しくする。もともとのスポンジの味を上手く生かして、もっと良くするってのが僕らの仕事かなあ。

あ、そのときにね「原作が面白いからアニメも面白い」じゃなくて「原作はもちろん良いけど、アニメチームもきちんとやったから面白いんだよ」っていう意識を持つこともとても大事だと思っています。

コナンは来年20年目を迎えるということで既に青山先生のコナン展が開かれてますが(横浜開催は5月10日で終了)、僕たちアニメ班もそろそろ動き出しますよ!

では、今回はここらで…機会があればまた!

ゆ:貴重なお話の数々、本当にありがとうございました(*^^*)

 

対談のあとは諏訪さんのデスクに招いていただき、写真を撮らせていただきました\(^o^)/


(オンマウスでコナンくんたちがアップになります♪)

 

 

いかがだったでしょうか?
アニメ界の重鎮である諏訪さんのこと、テレビ局のこと、アニメのこと、色々と分かっていただけたんではないでしょうか?

素敵な時間をくださった諏訪さんに心から感謝し、もっともっとアニメや劇伴を応援してこうと気持ちを新たにしたところで、今回の対談レポを終わりたいと思います。

 

2014年7月9日 

 

 

 

Home  Guestbook  Mail  Web Clap  Back

 

 

 

 

inserted by FC2 system