コンサートマスターのお仕事 Q&A

 

皆さんは「コンサートマスター」って何だか知ってますか?

オーケストラのコンサートに行ったときに、客席からステージに向かって見て指揮者のすぐ左側にいるヴァイオリン奏者のことを「コンサートマスター(女性の場合はコンサートミストレス)」と呼ぶそうですが、 私はそういう呼び名は知ってる…って程度で、その人が実際にオーケストラの中でどんな役割を担っているのかは全く知りません…。

そこで、ご自身のストリングスグループを持ってスタジオレコーディングなどでスタジオミュージシャンとして活躍されてるほか、たくさんのオーケストラでのコンサートマスター経験のあるヴァイオリニスト・篠崎正嗣さん(以下‘マサさん’と書きます)にご協力いただいて、コンサートマスターのお仕事に迫ってみることにしました♪

あ、なぜ急にこんなことを調べようかと思ったかと言うと…ある日、スタジオレコーディングのレポート関連で確認させていただきたいことがあってマサさんにメールをしたら、そのお返事と一緒に「○日は午前中まで韓国で、午後からは日本で仕事なんだけど、間に合うかどうか…」というようなことが書かれてました。私はこの内容にビックリして「もし何かのトラブルで飛行機が遅れたりしたら、どうするんですか!?」と返信すると「僕の仕事にはいつもコンサートマスターができる人が何人か入ってるから、僕がいなくても大丈夫!」というお返事があって少しホッとしたんですが、ここで私は「コンサートマスターができる…って、どういうこと?」「コンサートマスターって、何をやってるの?」って思ったわけですね(^^ゞ

そんなわけで、もしかするとクラシックのオーケストラでのコンサートマスターというよりは、スタジオレコーディングの中でのコンサートマスターという視点の方が強いかもしれませんが、コンサートマスターの役割についての色んな謎が解けると思います。スタジオレコーディングやスタジオミュージシャンについては、当HP内の「はたらく おっちゃん」ページを見ていただくと分かりやすいんではないでしょうか…。

とにかく、私の「何故? なぜ? どうして!?」というド素人級の質問の嵐にもマサさんは文句1つ言わず、とても優しく丁寧に答えてくださって、ほんとに感謝しています(*^^*)

また、一部の質問に関しては、マサさんの「僕より、タジタジの方が詳しいから…」との一声で、東京交響楽団でアシスタントコンサートマスターをされてる田尻順さんが答えてくださってます。ほかに、おっちゃんが「コンサートマスターに指示される側」の立場で答えてくれた質問も…皆さんも以下のQ&Aを読んで、さらに演奏家さんたちへの理解を深めて、これからもっともっと応援してあげてくださいねo(^-^)o

 

 

コンサートマスターって何ですか?

そこにいるオーケストラ全てをまとめて、コンダクター(指揮者)の次に音楽を色づける責任と権限を持っている人です。

細かな音の出だしや切るタイミング、それに表現においての微妙なニュアンスは指揮者だけでは指示しきれないことも多いので、そんなときに皆はコンサートマスターを見ながら演奏します。

でも、スタジオでは普通「コンサートマスター」とは呼びません。たとえば「ストリングスのトップの○○さん」といった感じで呼びます。

 

ヴァイオリン以外の人がコンサートマスターをすることはあるの?

オーケストラではコンサートマスターというのは特定のヴァイオリン奏者に与えられた称号のようなものなのです。ですから、ヴァイオリン以外の人がやるも何も、ヴァイオリン奏者でなければコンサートマスターにはなれません。ただ、吹奏楽の世界ではクラリネットの人がコンサートマスターというポジションになることがあるようです。(回答:田尻さん)

 

コンサートマスターをする上で、難しい点って何ですか?

コンサートマスターは皆のまとめ役なのに、時としてオーケストラのメンバーに「そんなに上手くないのに、コンマスするなんて…」と、その地位を認めてもらえないということがあります。そうした場合は非常にやりにくい立場で、コンサートマスターの指示を無視して勝手に演奏されたり、曲に関して「ここはこう解釈すべきでは…?」という感じで意見をされることもあります。

「客演」といって、そのオーケストラに所属してない奏者がやってきて、初めてそこでコンサートマスターを務めるときは、オーケストラの皆はすごく注目して品定めするので、けっこうプレッシャーがかかります。

 

そうやって、他のメンバーから意見されたり、勝手に演奏されたときはどうするんですか?

他のメンバーに意見されたときは、その意見が正しければ、認めてそうします。特に、僕はクラシックにはあまり詳しくないので…。

勝手に演奏されたときは、一応こちらの意図をきちんと伝えてニュアンスの統一を図ります。でも、それでも聞き入れてもらえない人がいたときは、僕の場合は………以下省略。

 

初めてのオーケストラに「品定めされるんだ…」と思いながら行くのって、やっぱりドキドキしますか?

ドキドキっつうより、どういう演奏をすれば認めてもらえるかな…ってことばかり考えてます。

 

指揮者と曲の解釈が違うときはある? もしあったら、どうするの?

もちろん、しょっちゅうあります。場合によりけりで、指揮者の言う通りにすることもあるし、コンサートマスターを中心に演奏者側の音楽を主張する場合もあります。(回答:田尻さん)

 

以前、テレビで「コンサートマスターには、ヴァイオリンの弓の動き方を決めてあげるという仕事もある」というのを見たことがありますが、本当ですか?

厳密に言えば「弓の動きがバラバラだと、音のまとまりがなくなる」ということもあるけど、スタジオで1時間に何曲も録るときには、いちいちそんなことを決めてる暇はないんだよ。作曲家によっては、いきなり本番を録ったりする人もいるし…。

ただし、テレビやステージの仕事のときには見た目のこともあって決めておく必要があるけど、僕は面倒くさいので隣の人に書いてもらってます(その人は、一度リハのときに僕の動きを見ながら書いてる…)。

ちなみに、音符の上にマークを書くと下から上に、Пマークを書くと上から下に弓が動きます。(Пはロシア文字の‘ペー’にあたる文字ですが、PCでは上手く表記されないかも…縦に長い四角の下の一辺がないものを想像してください)

 

皆に指示する大事な役目をしているコンサートマスターの弦が、演奏中に急に切れてしまって演奏できなくなったらどうするんですか?

本番中は、まず隣の奏者の楽器と取り替えます。そして順番に後ろの奏者と取り替えていって、いちばん後ろの奏者がステージを出て張り替えます。そして頃合いを見計らってステージに戻ります 。(回答:田尻さん)

 

そもそも、コンサートマスターって誰が決めるんですか? 指揮者? 

コンサートマスターになる人は、そこのオーケストラの現役コンサートマスターや指揮者の推薦が多いかな…。もちろん、何とかコンクール何位とか、何とかオーケストラのコンマスだったとかいう経歴も大事です。

でも、僕の場合はコンクールも出たことないし、オーケストラの経験もないけど…。

 

コンサートマスターがオケ全体のまとめ役だということはよく分かりましたが、スタジオでもそれは同じですか? スタジオだと木管などはブースに入ることも多いと思うのですが、そういうときは同じフロアにいる演奏家さんたちだけをまとめるのですか? 

いや、スタジオでのコンサートマスターもオーケストラのコンサートマスターと同じように、そのとき一緒に演奏する人たち全員をまとめます。ブースにいる人たちはイヤフォーンでニュアンスを聴いて、それに合わせて演奏します。コンサートマスターとしては、ときにはブースにいる人に注文をつけることもあるよ。

でも、スタジオでは、ストリングス、木管、ブラス、リズム隊…などと、制作者サイドが楽器別に発注しているので(ミュージシャンを呼んでいるので)、コンサートマスターに当たるヴァイオリンのトップの人は、それぞれの楽器にまで口を出すことはほとんどありません。

あと、指揮者がいないときには、リタルダンド(だんだんテンポを落としていくこと)の動き方や曲の終わりの合図はコンサートマスターが出すので、皆がコンサートマスターを見てます…(ブースにいる人はブース内にあるモニターを通して)。

 

実際にスタジオでコンサートマスターから「このあたりはこうしてほしい…」っていうような指示をされたり、誰かが指示されてるところを見たことはある?(以下の3つは↑のマサさんからの回答を受けて、おっちゃんに出した質問とその答えです)

まあ、こちらも出来るだけニュアンスを汲み取る努力はしてるんで言われたことはないけど、全く見たことがないってわけでもないかな…何ていうか、確かにスタジオでのコンマスも普通のオケのコンマスと同じように全体をまとめるんだけど、スタジオでのコンマスはオケのコンマスほどは主導権を取らない(取れない?)気がするなあ。

何故なら、スタジオでは「別録り」や「ダビング」ってケースも多く、木管が録音する時点でまだ弦が入ってないってこともあるので、必ずしもコンマスのニュアンスに合わせるってことでもないんです。つまり、場合によっては、先に録っている木管やリズム隊のニュアンスに弦が合わせるってこともあるわけです。

こうした作業はお互いの音をよく聴いて尊重しあってないとできないので、各セクションが一堂に会する全体録音のときでも、コンマスが各パートに色々と指示するというのは普通のオケよりはずっと少ない気がします。マサちゃんは各セクションはもちろん、木管の音なんかもいつもほんとによく聴いてくれて、それらを汲んだ上でコンマスとして全体をまとめてくれてるんですよ。(回答:おっちゃん)

 

ブースの中にいて、コンサートマスターだけの音が聴こえるの?

コンマスだけの音ってわけではなく、弦全体を聴いてます。また、弦だけでなく、オケ全体を聴いてるし、キューボックス(スタジオ用語辞典参照)のチャンネル数によってはかなり細かくピックアップして聴けるので、その時々で自分が演奏するのに必要な音を聴いてます。(回答:おっちゃん)

 

コンサートマスターの音だけをピックアップできずに弦全体としてしか聴けないとなると、さっきのマサさんの話にあったような「ストリングスグループ内でのニュアンスの違い」が生じてるときはどうするの?

う〜ん…そういう問題が起こっていたとしても、オケ全体を聴いたり、コンマスの弓の動きを見たりすると、コンマスが何を言わんとしてるかは分かってくるもんなんだよ。(回答:おっちゃん)

 

スタジオでトップ(コンサートマスター)をするときに、何かマサさんならではの「僕はこんな工夫をしているよ!」みたいなことはありますか?

僕の場合…スタジオ録音で時間に余裕がある時には、プレイバック(録音したものを再生すること)を聴きながら作曲家と「ここのフレーズはこう演奏した方が良くない…?」とかの打ち合わせをして改善変更したり、ミキサー(エンジニア)にマイクのセッティングやリバーブ(残響音・エコー)の注文をつけたりすることもあります。

ただ、前に某作曲家から「もっと皆さんと一緒に意見を交換しながら音楽を作って行きたい」って言われたけど、そのときは1曲ごとに間髪を入れずにちょこちょこと変更が出たり、曲数が多かったりしてプレイバックを聴く時間がなくて、作曲家が望むような打ち合わせが全然できない…なんてこともありました。この「時間に余裕が…」というのが、なかなか難しいところです。

 

現場で楽譜をもらったあと、弦グループの皆さんにその楽譜をもとに色々と指示するんですか?

僕は現場では75%何も言いません。大体はアレンジャーさんからの注文が中心なので、あとは場慣れしてないメンバーに少しアドバイスするだけです。でも、もしアレンジャーさんが場慣れしてないときは、僕の方で曲を作っていきます。

 

↑の「僕の方で曲を作っていく」って言うのは、弦のグループだけに「こんな感じでいこう!」って指示するんですか? 場慣れしてないアレンジャーさんの代わりに…ということは、全体に?

弦のグループには「こんな感じでいこう!」じゃなくて「ここをこうして…」「ここでクレッシェンドして、ここは優しく…」っつう指示を出します。で、場慣れしてないアレンジャーとかには、相談したり、しなかったり…。

 

オーケストラにはアシスタントコンサートマスターという人がいますが、スタジオレコーディングのときにもいますか? いたとしたら、その人は何をしてるの?

さっきも話したように、スタジオではそれぞれの楽器にまで口を出すことがほとんどないので、あまりその場を離れることがありません。したがって、アシスタントコンマスは必要ないことになります。

例外として、トップがソロパートを別の部屋(ブース)に弾きに行った場合は、次の人がその場をまとめる………はずですが………

 

もし1つの曲の中でヴァイオリンのソロパートがあったりしたら、それを弾くのもトップの役目ですか? トップ以外の人が弾くこともあるの?

僕は作曲や編曲もするので、どこの(誰の)ストリングスグループが来るかによって、ソロとか内容(難易度)を変えてアレンジしたことはありますが、ほとんどの場合はトップの人がソロを弾きます。

その他に、特別にソロだけを弾きに、すでに入っているストリングスグループとは別の人を入れる時もあります。

 

 

どうでしたか? 少しは「今まで疑問に思ってたけど、恥ずかしくて聞けなかった…」「知りたかったけど、どこに聞けばいいか分からなかった…」なんていう謎が解けたでしょうか?

 

 

篠崎正嗣さん(1950年2月17日生まれ・A型)

4歳でヴァイオリンを始め、17歳からスタジオミュージシャンとしてお仕事されてます。1974年に布施明やNSPのコンサートツアーにソロ・ヴァイオリンで参加されたあと、ミュージカルや映画・イベント音楽の作曲を積極的に手がけられ、ソロアルバムもたくさんリリースされています。もちろん、その間もたくさんのレコーディングに参加して、ヴァイオリンや二胡の美しい音色を数多く残してくださってます。


マサさんの2007年現在の代表作は…

ドラえもん「しずかちゃんのヴァイオリンの音」(演奏)

高杉さと美「旅人(西遊記テーマソング)」(二胡演奏)

NHKハイビジョン番組「日本の名峰」(作編曲)

RMAJアルバム「音☆コラージュ」(プロデュース)

菊池ひみこ「ダブルカルテット」(ライブ)

「白山国際太鼓エクスタジア」(音楽監督・曲提供)

…など、あまりに多くて、とても書ききれません(^^ゞ


明るく社交的なんだけど、実はとってもシャイなマサさん。ときどき、風の吹くまま気の向くまま〜なところがあってハラハラドキドキさせられるんですが、どんなことでもドーンと受け止めてくれそうな大きな器の持ち主でもあります。マサさんの詳しいプロフィールについては、私が作った「篠崎正嗣さんのプロフィール」ページをご覧ください☆彡

また、そんなマサさんが日々の出来事をぽつりぽつりとつぶやいてるブログ「マサちゃんのづれづれ日記」でも、そのユニークで繊細で温かなお人柄に触れてみてくださいね(^.^)b

Q&Aの後半に登場した「おっちゃん」については、ぜひ「はたらく おっちゃん」や、おっちゃん自身のHPをどうぞ

 

 

お ま け

このページを作るにいたってはマサさんに何度も内容の確認をしてもらったんですが、そのときに「もしプロフィール用にお気に入りの写真があれば…」って言ったら、左のような写真が届きました(;^_^A

しかも、写真にマウスを乗せると、また違う面白写真が…!

泣く子も黙るような実力と経歴を持ちながら、とってもユニークで気さくでお茶目なマサさん。おっちゃんの大事な大事なお仕事仲間です(*^-^*)

おっちゃんとマサさんの関係(決して怪しいものではないです…)については別項「篠崎正嗣さんにとってのおっちゃん」をご覧くださいね♪

 

 

Home  Top  Guestbook  Mail  Web Clap  Back

 

 

inserted by FC2 system