中村充時さんが語る、もう1つの映画「ポケモン」

 

 

以下の文は、映画ポケットモンスター「幻影の覇者 ゾロアーク」の音楽録りにおいて、その場での出来事や音楽のことについて、エンジニアの中村充時さんがエンジニア目線で語ってくださってます。検索でこのページにたどり着かれた方はまずレポ本編を読んで、それと合わせてこちらを読んでみてくださいね(^.^)b


宮崎さんが苦労してらっしゃるのは、今までは作曲のデモ段階ではMIDIオンリーで、音源をrolandのSC-88というDTM用な簡易な音源でチェックしていたため、MacBookなど比較的CPUが非力なPCでも作業が楽だったのが、今回2種類の比較的マシンパワーを必要とするソフトウェア音源を使用されるよになったからです。

そのためにPCもMac BookからMac Proのタワー型を新調され、丸尾さんの協力の下、宮崎さんのメイン・シーケンサーであるデジタル・パフォーマーもバージョンアップして、態勢を一新したわけです。こういう新しいことをする時に使い慣れない、ということもありますが、パソコンではつきもののトラブルが頻発するのです。

OSとデジタル・パフォーマーのバージョン(以後DP)の相性、MIDI、オーディオ・インターフェース(以後AudioI/O)の相性、さらにDPとソフトウェア・シンセのバージョンの相性と、複雑にからみあってなかなかスムースにことは進まないのです。今回メインに使われているソフトウェア音源のひとつはOmnisphere(オムニスフィア:以後オムニス)というサンプラー系シンセ、それとSD2(エスディーツー)、あとは以前からのSC-88とYAMAHAのMOTIF(モティーフ)などをMIDI音源として使用されています。

作曲されて、デモを作られたら、オムニス、SD2、SC-88、MOTIFの各音色とそのMIDIシーケンスを丸尾さんに送られて、それらの音チェックをされたらわたしのところに「オーディオ(音)」となってやってくるわけです。

この時に宮崎さんが四苦八苦されていたのは、例えばSD2の音色がちょっとしたことで選んでいたものと違ったものになってしまったり、鳴っているはずのものがたぶん「バグ」(ソフトウェアにはつきもの^^;)によって鳴っていなかったり、DPがフリーズして(固まって)しまったり、とかのトラブルです。

現在、オムニスとSD2は劇伴界では必需品みたいなソフトウェア音源で、特にシリアスな場面、重厚な場面、派手な場面、迫力が求められる場面などでは非常に多用されています。オムニスの音色は非常に多岐にわたるため、よっぽど「素」で使われない限り用途が似ないというのと、元々音源が実音(例えば針金ハンガーを並べてたたくとか)をサンプルして作っているため、オーケストレーションになじみやすい、と僕は思っています。クラシックのオケでも鉄道のレールをハンマーで叩く、とかドラを消しゴムでこする、とかいう奏法があるように、いわゆる電子音だけで構成されたシンセよりも空間があるため相性がよいのですね。

現代音楽で使われる電子楽器もほとんどがスピーカーがあって、いったんホールで「演奏」されるものが主ですよね。そういった意味合いです。

SD2の方はこれまたパーカッション類の集大成みたいな音源で、サンプルはもちろん生打楽器であると同時に非常に空間的広がりのあるサンプルが多いため、普段狭いブースに押し込められて録音するクラシック・パーカッション(クラパー)に比較して、小音量でも迫力を演出できる音が数多く揃っています。
さらにそれをプロのパーカショニストが叩いたMIDIのシーケンス・パターンが収録されており、そのパターンを組み合わせることによって「人」の手によるリズム・グルーブが容易に手に入れることができる、とうことで、作曲家にとってもエンジニアにとっても心強い味方です。

でもこういう「便利」なものがあると予算がしぼられるご時世で本来の「生」演奏はどんどん隅においやられて行くでしょうね、劇伴という世界では。まさしくもろ刃の剣でもあります。

そんなこんなで今回のクラパーの中心はティンパニー、スタンド・シンバル、マリンバ、一部スネアであります。ティンパニーは表情豊かなのでトレモロからの一発とか、連打時のうねりとか、まだサンプルでは表現されない部分が大きいですね。

スタンド・シンバルもやはりロールの長さやクレッシェンドの音の割れ具合が曲調によって全く異なるのと、つかみによるミュート奏法もその切り具合がテンポ感で変わってくるところで有効でした。(打ち込みもセーフティーとして録ってありましたが、明らかに薄かったですね。)マリンバなど、鍵盤ものはサンプルにはまだまだウソっぽさがつきまといます。バチによる違いもありますが、基本的に音の要素がサンプルでは削られ過ぎの気がします。

ついでにいっちゃうと、扱い易い音源ほど音としての要素が少ないです。
エンジニアを始めた時に最初に苦しむのはドラムやピアノなどの楽器の音をEQなどでまとめていく作業です。それは鳴っている実際の音とマイクを通した音、気持ちの中、音楽の中で聞こえて欲しい音との差がめちゃくちゃ大きいからです。

しかもそれが演奏者、楽器、環境、そして1曲、1曲の楽器によって全然違ってくる。だから昔は音決めといって、ドラムのチューニングからマイキング、EQなどの調整に何時間もかける時間がありました。今はそんな悠長な時間もありませんし、劇伴では1曲ずつ求められるドラム音も違っても叶えられるという逆に作曲家にとってはありがたい環境になったわけですね。

とはいえサウンプルも変わってきて少し生の感じは出てきましたが、それでもまだまだ「あばれ」具合は1割ぐらいですかね〜^^

 

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