中村充時さんが語る「神のみ」の音について

 

2011年4月から放送開始となるアニメ「神のみぞ知るセカイ 第2期」の録音レポの中で「1期と2期では打ち込みに使った音源が違う」というようなお話がありましたね。 そのことについて、実際どんなふうに違うのか、それをオンエアで使うためにはどういった処理をほどこすのか…などをエンジニアさんの視点からたっぷり語っていただきましたので、どうぞ読んでみてくださいね(^.^)b

 

 

 

 

弦のメンバーは多少違うでしょうけど、基本同じスタジオ、同じマイク、同じ調整卓、で録っているのですが、やはりずいぶん印象は違いました。

ミックスを、ベーシックな部分は前回のミックスをテンプレートとして下敷きにしているので、スタート地点では余り変わりません。しかし打ち込みで入っているブラス類、トランペット、トロンボーンやホルン、ハープの音色がやはり1期とずいぶん変わっているので、これらの音色に影響を受けてずいぶんミックスが変わってしまったみたいです。

松尾さんのお話では1期は様々な音源の寄せ集めだったそうですが、ホルンの空間の広がり感はぼくはとても好きです。ホルンは左に位置したい、っていう作家の方もいらっしゃいますが、実際のホールでは意外と目をつむって聞くといろんな反射であちこちから響くもので、松尾さんが選ばれたホルンの音源はそれがいい具合になっていますね。でも、ブラスはちょっと割った時やミュートの音の線が細い印象がありました。全部が打ち込みの時はそれでもいいですが、今回のように一部生音が入ると、弦の中域に負けてやわく聞こえます。

しかし全体としてはきらびやかな音色、ということで弦もつややかを意識してギシっとしたところをEQで押さえて処理しています。 それに対して2期では事前の準備段階で、ブラスもホルンもハープもがらっと違う音で松尾さんとこからやってきました^^;

正直、2期とはいえ同じタイトルですから、音質的にも統一を考えるとこなんですけど、この違いは無理だな(笑)と。
2期の音源はブラス、木管はEastWest社のQUANTUM LEAP(カンタム・リープ)Symphonic Orchestraの音源と聞いています。ハープも以前と比べて太い音なんですが、これの音源はちょっと忘れました。それでカンタムのブラスはアンビエンス付きで左右の定位と分離度が高いのです。

松尾さんいわく、どちらかの音源のアンビエンスが切れなくて全てをある方に統一したそうですが、このホール感がくせもの。弦もピアノもそれに近づけなくては全体のオケとしてはまとまらない。音源としてついちゃってる音はなかなか減らせるもんではないので、という意味で。

というわけで、1期の時よりも弦とピアノのホールの反射成分を担うScoring Stagesの処理が増えています。
それはステムやソロとして使われるピアノに音の違いが一番よく現れていて、1期が劇伴的な音色だとすると、2期は劇伴とクラシックの間ぐらいになってるかな、と。

自分的には弦は1期、ピアノは2期の方ができが良いかな。でもこのあたり、松尾さんは2期のチェロの音は「やっぱり生はいいなぁ〜!」っておっしゃってたので、2期のちょっと力強い太めの音の方が好みかも知れませんw


今回のオマケは特徴的な1stヴァイオリン、弦全体、オケ全体に使ったEQ等のスクリーンショットです。


 

☆どちらもクリックすると別窓で大きな画像が見えます☆

 

 

 

 

…いかがでしたか?
オンエアではセリフや効果音が重なって細かいところまでは聴き取りにくいことも多いんですが、それでも1音1音こんなにも大事に作り上げられてるんですよね。ほんと胸が熱くなります。

当然のことながら2期では1期のときの音楽と両方が使われるので、ぜひ松尾さんや充時さんのこうしたやりとりに思いを馳せて、1期のとき以上に音色や音質を意識してほしいと思いますo(^-^)o

ところで、今回も専門用語や独特の言い回し方があって、ちょっと難しく感じる部分がありますよね。なので、私なんかでも分かるように充時さんに解説していただきましたので、↓のQ&Aも合わせてご覧くださいね(^.^)b

 

 

文中の「ブラスがちょっと割る」とはどういう意味ですか?

強く吹くとパリっとかブリリって音が鳴りますよね、あのブラスの高い周波数の成分のことです。

 

アンビエンスって何ですか? 残響のこと?

残響とはちょっとニュアンスが異なります。ある音が鳴らした時の周囲の音全体です。
残響も含みますが、アンビエンス⊃残響ってことですね。

 

ステムって何ですか?

直訳は「棒」ですが、ある完成したミックスに対して、楽器群や意図的に分別したパート群ごとの個別ミックスを指します。
ステムになった個別ミックスを全て同時に鳴らすと完成ミックスと同じになるか同等になる場合にはじめてステム・ミックスと言えます。
未処理(EQ, Comp, Revなどをつけていない)の楽器群、バランスをとっていない素材はステムとは呼びません。

 

↑の回答にある「EQ, Comp, Rev」とは何の略でどういう意味ですか?

EQ(イー・キュー、イコライザー)=Equalizer, Comp(コンプ、コンプレッサー)=Compression, Rev(レブ、リバーブ)=Reverbで、EQは周波数をいじる、何kHzを何dB(デシ)上げるとか下げるって話はEQのことです。調整卓で一番つまみの数が多いやつです。

equalってのは同じっていう数学の「=」と同じ意味で、それの派生語である-izeというのは〜にするっていう意味ですから、「同じにする」ってことですね。
EQは元は原音に対して、マイクやアンプを通した音を再生で等価に「補正」するというのが主目的だったので、イコライザーという名称が付きました。

コンプは「圧縮する」という意味で、音量の大小の差があるものを、大きな音を可変抵抗器によって抑える働きをする機器を使い、その抑えた分全体音量を上げることで実質圧縮するわけです。
アナログ的には大きな音を抑えることしかできませんが、デジタル領域では小さな音を大きくする(持ち上げる、言うことがあります)ことができ、この機器あるいはプラグ・インもコンプレッサーと呼びます。

ギターのコンプレッサー等で強くコンプレッサーをかけると、音の伸びたところ(リリース)がふわーっと持ち上がってくるので、小さい音も大きくしているように感じますが、それは最終段階で全体音量を上げているためで、実際は小さい音を大きくしているのはコンプの部分ではありません。
コンプレッサーの兄弟分としてLimitter(リミッター)という機器もあります。
デジタル方式のコンプレッサーをマキシマイザーと呼ぶこともあります。

リバーブは残響(付加)装置です。これは方式がいっぱいあります。
古くはコンクリートの部屋にスピーカーで音を出してとマイクで拾うという、チェンバー方式、バネを使ったスプリング方式、鉄板を使った方式などが主流でした。
そうした物理的方式からだんだん電子的な方式が主流になっていきました。
それでもデジタル・リバーブにはホールや部屋、スプリング、鉄板エコーといったものをシミュレーションするプリセットが必ずあります。

エコーとリバーブの違いは、エコーはやまびこのように原音が繰り返されるもの、リバーブはトンネルのように残響が付くものとして区別します。
そういう意味では鉄板エコーは鉄板リバーブなんですが^^; 伝統的にそう呼ばれています。もちろん動作としては両方を含むものもあるので、総称としてはリバーブでよいでしょう。

 

Scoring Stagesの処理ってどういうことをするんですか?

スタジオ等で録音したオーケストラ楽器は、普通オン・マイク(楽器のすぐ近くで楽器の直接音を拾う)とオフ・マイク(楽器から離れた場所から楽器とその周囲の音も一緒に拾う)、アンビエンス・マイク(楽器の音ももちろん入ってしまいますが、周囲の間接音を拾うためのマイク)の音と、人工的にリバーブ(残響、音が伸びるようなもの、主に天井の高さに影響される)、アンビエンス(部屋鳴り、反射音、主に部屋の広さ、材質に影響される)などを付加して、音作りをします。
その中でScoring Stagesはオーケストラを主に録音するための広いスタジオの響きをサンプリングしたものをアンビエンスとして使っているということです。

楽器の直接音+アンビエンス=オフ・マイクの音に近くなりますので、アンビエンスの既についたサンプル音源に、スタジオの生楽器の音を近づけるためにとる一つの手段です。

 

サントラCDになるときは、こうして整音されたものがそのまま使われるんですか?

いいえ、CDにするにはCD規格に収めるために必要なことと、曲ごとにバラバラな音量感、アルバムとしてのトーナリティを調整するために、マスタリング・スタジオというところで、マスタリング・エンジニアというまた別のスキル、あるいは機材を持ったところでマスタリング作業をします。

 

 

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