「5.1ch」って何だろう?

 

ここ数年、色んな映画のサイトやDVDのパッケージで「5.1ch 対応」なんて文字を目にしませんか?でも、「それは何…?」と尋ねられると、はたして何人の方が的確に答えられるでしょう…。ちなみに、私は「何か、すごいダイナミックな音がする設備なんだろうなあ…」くらいにしか分かってませんでした。そこで、その第一人者である亀川徹さんに、もう少し詳しく教えていただくことにしました〜♪

ここに至るまでには、せっかく亀川さんが送ってきてくださった解説文に「何?」「どうして?」とたくさんのド素人的な質問を浴びせ、私のようなレベルの人にも分かるように…と、さらに平たく平たく書きなおしていただくという大変なお手間をおかけしました。また、もともとは映画「燃ゆるとき」の録音レポで「5.1ch」について少しだけ触れさせていただいたのがキッカケで始まったことなので、作曲家・川崎真弘さんにも色々とお力添えをいただきました。この場を借りて、心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました(*^-^*)

 

 

 亀川 徹さんによる「5.1ch」ミニミニ講座(初級編)

 

5.1サラウンド方式とは…

音楽の再生方式といえば、左右に2つのスピーカーをセットする「ステレオ方式」が一般的ですが、これに対して最近の映画やDVD、デジタル放送などでは、前方だけでなく後方にもスピーカーを配置する「5.1サラウンド」とよばれる方式がよく使われています。


5.1サラウンドのスピーカーの配置については、映画館のような広い場所と家庭で聴くような場合とでは違ってくるのですが、スタジオでサラウンドの音を作るときは、ホームシアターを想定して各スピーカーを配置します。

そのホームシアターの標準的な配置ですが、まず前方には、冒頭でお話した「ステレオ方式」で使われている左右2つのスピーカーの間にもう1つを加えた計3つのスピーカーを置き、後方には左右2つのスピーカーを置きます。そして、さらに低音専用のスピーカー(これを‘0.1チャンネル’と数えます)を置き、合計6つのスピーカーが聴く人を取り囲むように配置します。


5.1サラウンドの特徴は、従来のステレオ(左右に1つずつスピーカーがあること)に比べて真ん中にもう1つスピーカーがあることで、前方の音の位置がはっきりとし、また後方のスピーカーによって自然な音の拡がりや臨場感を感じさせることができます。さらに低音専用のスピーカーを「ここぞ」というときに用いることで、より迫力のある音を表現することができます。

液晶やプラズマによるハイビジョンの大型テレビが家庭に普及することで、従来のステレオでは表現できなかった、より臨場感のある音を求めて、5.1サラウンドによるソフトがますます増えています。最近では映画や音楽の他に、ゲームの世界でもこうした臨場感ある音を用いることが注目されており、バーチャルな世界をよりリアルにする手法として、映画や音楽とはまた違った表現方法が生まれてくることが期待されます。

 

 

どうでしたか? 今まで漠然としか分かってなかった「5.1ch」のことが、とてもよく分かったでしょう?

で、さらにここで、私が亀川さんに投げかけた質問の一部とそれに対するお答え、それに亀川さんに教えていただいたオーディオに関するマメ知識を書いておきますので、是非これから色んな音楽を楽しむときに活用してみてくださいね♪

 

 なぜ、低音専用のスピーカーが「0.1」なの?

スピーカー1つを「1チャンネル」と数えるなら、当然この低音専用のスピーカーも1チャンネルと数えるべきで、「5.1ch」ではなく「6ch」じゃないのか…と思ってしまいますよね。でも、このように低音のスピーカーを「0.1」と数えるのは、低音しか出ない特殊なスピーカーを使っていて、他のスピーカーが「1」の音域とすると、「0.1」分の音域しか出さないからなんです。

 

 

 

 

 

 低音専用スピーカーを置く位置って決まってるの?

正確にいうと「部屋の中で、聴く位置によって低音が極端に大きくなったり、小さくなったりしないような場所」で、具体的には部屋の中央や、端っこは避けて置くようにしているのですが、このへんの説明はちょっと難しいかもしれませんね。

 

 

 

 

 そもそも「ステレオ」って何?

本当は「ステレオ」という言葉は「立体的な音」という意味の「Stereophonic(ステレオフォニック)」という言葉からきていて、エジソンの蓄音機から始まったオーディオの歴史の中で、1つのスピーカー(mono:モノ)だけで再生してたときから、2つのスピーカーを使って再生する方法ができたときに使われた言葉なんです。

だから、5.1サラウンドの方がより立体的な音が表現できるので、専門的には「マルチチャンネルステレオ」という言葉が使われています。

 

 

 

 

 

 

 「モノラル」と「ステレオ」って、どう違うの?

本来「モノラル(monaural)」とは「片耳で聴く」ということを指していて、その対の言葉としては「両耳で聴く」という意味の「バイノーラル(binaural)」という言葉があります。

一般には、片耳で聴くことを「モノラル」というのに対して、両耳で聴くことを「ステレオ」という風に言ったりしていますが、本当はそうした場面では「モノフォニック(monophonic)」と「2チャンネルステレオフォニック」というのが正式な表現なのです。

 

 

 

 

 川崎真弘さんによる「5.1ch」ミニミニ講座(応用編)

 

亀ちゃんが非常に分かりやすい説明をしてくれてるので、私からも補足と言うか、蛇足を…
「人間の耳が2つあるのは何故か?」「耳たぶが耳の穴の後ろ側に付いているのは何故か?」というところに着目してみると、「自然な臨場感って何だろうか?」ってことが見えてくるんじゃないかと思います。目が片目だけだと距離感がつかめないのと一緒で、耳も2つあってこそ、音のする方向や距離感がつかめますね。耳たぶで音の反射が起きるので、前からの音はよく聴こえ、後ろからの音は少し聴きにくく、音色も微妙に違っています。

自然環境の音は、例えばハンマーで何かを叩いたら、私達は直接伝わって来る音だけではなく、色々なところに反射してくる音も一緒に聴いています。ビル街と室内、高原などではそれぞれ違っているよね。それが自然な音として私達は無意識に受け止めているけど、限られた空間…たとえば映画館や家のリビングなどで、そういった状況を作り出して、より自然に近い音空間を提供するのがサラウンド方式と言えるんじゃないかな。

今(2005年現在)は5.1チャンネルが主流だけど、既に7.1チャンネルなんて方式もあるし、天井にもスピーカーをつける方式もあったりして、将来はどうなっていくかは今のところ誰にも分からない。でも、5.1チャンネルが必要最小限の方式だと思うので、世の中が進歩しても、あまり変わらない気がしています。所詮、人間の耳は2つしか無いんだしね。


上の亀ちゃんの図は、あくまでもホームシアター規模や音楽スタジオでの基本配置で、こちらが一般的な映画館でのスピーカー配置です。

図に書いてある記号は「L(左チャンネル)」「R(右チャンネル)」「C(センター・チャンネル)」「Sub W(低音専用サブウーハー)」「SL(サラウンド左チャンネル)」「SR(サラウンド右チャンネル)」「SLR(サラウンド後方左チャンネル)」「SRR(サラウンド後方右チャンネル)」となっていますが、5.1チャンネルはスピーカーの数に関わらず、音が「5」と「0.1」に分かれているだけなので、サラウンドはSLとSLRは同じ音が出ています。SRとSRRも同じです。


つまり、前方の「L」「C」「R」と「Sub W」以外は、あと幾つスピーカーがあっても、サラウンドの左チャンネルか右チャンネルと言うことです。色分けしてあるピンクとグリーンはそれぞれ、亀ちゃんの図のSLとSRと同じ機能ですな。

ちなみに私は、空いてる映画館に入ると、壁のスピーカー位置を確認して座席を選んでおる。もちろん、中央付近でね。

 

 

どうでしたか? 先の亀川さんのミニミニ講座を見て「よし、ここまで知ったんなら、もうちょっと深いところまで…」って言うことで話してくれたのが、今回の川崎さんのミニミニ講座でした。でも、さすがにここまでくると、ちょっと…いえ、かなりややこしいですよね。皆さんはしっかり理解できましたか?

亀川さんのときでさえ、あんな初歩中の初歩みたいな質問をした私ですから、当然この応用編は分かるはずもなく…川崎さんには「これでもか!」ってくらいの質問をさせていただきました。そんなわけで、その川崎さんに投げかけた質問の一部と、それに対する川崎さんからの優しく丁寧な解説を載せておきますので、どうぞ参考にしてみてくださいね♪

 

 こんなにスピーカーがいっぱいあるのに、何で「5.1ch」なの?

そうか。とりあえず「スピーカー1つを1チャンネルと数える」って習ったんだったよね。だったら、この話は不思議だよね。んじゃ、まず「1チャンネルだったらモノラル」「2チャンネルだったらステレオ」…と言うところまでは亀ちゃんに教えてもらったよね。ここで非常に乱暴に分かりやすく言うと、5.1chで使われる6つのチャンネル(スピーカー)には、それぞれ違う音が入っているわけなんだな。つまり、左チャンネルにフルート、右チャンネルにギター、中央チャンネルにヴォーカル、低音チャンネルにベース、後左チャンネルにストリングス、後右チャンネルにコーラス…って感じでね。

実際には1つのチャンネルに1つの楽器ってわけじゃなく、何種類かの音がミックスされてるんだけど、それぞれのチャンネルには別々な音が録音されているんだ。その各チャンネルに1つのスピーカーを割り当てたのが、5.1chの基本設定。だからスピーカーは「0.1」も入れて合計6個ってわけだ。しかし…だな、数百人を収容する映画館では、スピーカー5個では客席全体に行き渡らない。特にサラウンド(後左と後右)は、客席の1番うしろに付けたら、前の方の席の人には聴こえない。逆に、前の方に付けたら、後ろの方の人には聴こえない…と言う状況になってしまう。だからって、たった2つのサラウンド・スピーカーで客席全体に聴かせようとしてサラウンドが大音響で鳴ってたら、スピーカーの側にいる人はたまったもんじゃない。もともとサラウンドは、基本的に「さりげなく」音空間を演出するものだからね。

そこで、サラウンド用のスピーカーをある程度まんべんなく客席に配置することで、この問題を回避してるんだな。そして、チャンネルは5.1(6チャンネル)だけど、サラウンドのチャンネル用のスピーカーを増やすことで、客席の何処にいても「さりげなく」聴こえるわけだ。つまり、最初に話した例えで言うと、フルートの音が出てるスピーカーを3個、ギターの音が出てるスピーカーを3個、ヴォーカルが出てるスピーカーを3個…って感じで増やしていくことなんだ。

1チャンネル(モノラル)に2つスピーカーを付けても、2つのスピーカーからは全く同じ音が出ているから「ステレオ」にはならない。だから、スピーカーを3個に増やしても、10個に増やしても同じだよ。どのスピーカーからも同じ音が出てるんだからね。あ、これは、水道管本管が1本だけしか家に入って来ていないのに、台所でもお風呂でも、そして庭でも同じ水が出るのと似ているかもね。

更に言うと、透明な水用、赤い水用、青い水用・・・などと、水道管本管が6本も入っていると思ってみると、透明な水だけは、台所だけでなく各部屋でも出るようにしてあるわけだな。これが、チャンネルは1つでもスピーカーはたくさん…という状態。わかるかな〜? したがってこの場合、水道管本管がチャンネルで各部屋の蛇口をスピーカーというように置き換えて考えてみてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで「ウーハー」って何?

ウーハー(あるいはウーファーとも言う)はスピーカーの名称だと思っててくれればいいかな。よくある四角いスピーカーの中に、幾つか丸いヤツがあるのは知ってると思うけど、家庭用ではその丸いヤツが2つ(2ウェイ・スピーカー)ついてるのが多いと思う。大きい方がフルレンジ(音域全体をカヴァー)って言って、その上にある小さ〜い丸いヤツをツイーター(高音専用)って言うんだ。物によっては更にその中に何か尖がってるヤツがあるけど、とにかく、それらで構成されてるんだ。

ウーハーは低音専用のスピーカーです。チャンネルとスピーカーの関係は、↑の「水道管理論(理論ってほどか?)」によって解説したよね。まあ、言ってみれば「どす黒い水」専用の蛇口ってところかな。低音専用が何故「どす黒い水」なのかはさておいて…。亀ちゃんの言う「低音専用チャンネル」を鳴らすのがウーハーなんだけど、5.1サラウンドでは、これを「サブ・ウーファー」と呼ぶんだ。「スーパー・ウーファー」と呼ぶ場合もあるが、その方がいかにも重低音が出そうだな。

なぜ「サブ」が付くのかは分からんのだが…私の勝手な解釈では恐らく、他のチャンネルにも低音が入っているのにあえて低音専用だから、重低音補佐役として「サブ」なんじゃなかろうか?

…と、こんなに長い説明だと、かえって分かりにくくなるなあ。人さまに説明するのって、難しいね。まだまだ理解不能なところがあったら、どんどんご質問くださいな。とか言いながら、亀ちゃんに「違うよ〜!」なんて言われたら、どうすんべ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本文中の解説はもちろん、この「Q&A」も、2006年5月に亡くなられた川崎さんを偲ぶ意味も込めて、川崎さんからいただいたメールをできるだけ原文に近い形で載せてあります。詳しくは、このページの下にある川崎さんのプロフィールの最後の方をごらんください。

 

2006年7月  

 

 

亀川 徹さん

1960年、滋賀県のお生まれです。中学の時に吹奏楽で始めたトランペットがきっかけで音響に興味を持たれ、福岡にある九州芸術工科大学(現在の九大芸術工学部)の音響設計学科で音響について学ばれます。

卒業後は日本放送協会(NHK)に入られ、番組制作の音声担当として、N響コンサートをはじめ、様々な番組の録音を手がけられます。また、ハイビジョン放送の開始と共に、5.1サラウンドなどの新しい録音制作手法にも積極的に取り組まれ、常に「生きた音」を追求されてます。

2002年10月に東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科の助教授に就任され、音響・録音技術についての指導や研究活動をおこなう一方で、数多くの映画やゲームの音楽の録音に、エンジニアさんとして参加されてます。

川崎さんからは「紳士的で優しいおっちゃんだから…」なんて伺ってたんですが、ほんとにその通りの素敵な方ですよ♪(亀川さんについては、JAPRSのこちらや、亀川さんの職場である東京藝大にお邪魔したときのレポなども参考にしてみてください(^.^)b)

 

 

川崎真弘さん

1970年代の日本ロック界で伝説といわれた「イエロー」「カルメン・マキ&OZ」「金子マリ&バックスバニー」などのグループや数々のセッションで、ハモンドB−3を得意とするキーボード奏者として活動されてました。その後、宇崎竜童さんの呼びかけで「竜童組」の結成に参加し、解散までの6年間、今度は国内外を問わずに大活躍されたあと、本格的に映画音楽の作曲家としての活動をはじめられました。

川崎さんの音楽は、いつも土の匂いや風の薫り、大地の力強い鼓動が聞こえてくるようで、自然にすぅ〜っと心に染み入って、どこか懐かしい気持ちになれます。また、ご自身の音楽を語られるときの骨太な話し方が頼もしくて、とても魅力的な作曲家さんです。



でも、お酒とジョークと釣りが大好きな、おもしろいオジさんだったりもします。ついでに言うと、左の写真を公開してから、川崎さんのことを「ヒラメのおっちゃん」と呼ぶ声も…(^^ゞ

詳しくは、↓の川崎さんのHPをご覧ください。映画音楽を創ることに関して、川崎さんの目から徹底的に掘り下げたコンテンツ「Film Scoring」は必見ですよ♪

川崎真弘さんのHPへ


この川崎さんですが、2006年5月4日に肝臓ガンのために56歳という若さで亡くなられました。私としては、2005年11月の時点でこの「5.1ch」に関する原稿をいただいておきながら、オンエアやロードショウが差し迫ってる「おっちゃんの仕事場探検」の方のレポ編集を優先してしまい、川崎さんに正式アップを見てもらえないままになってしまったことが悔やまれてなりません。川崎さんには何度も「もうちょっと待ってくださいね」って言ってたんですが、そのたびに川崎さんは「急がなくていいよ」と優しく答えてくれてました。それが、まさかこんなことになるとは…(川崎さんの1周忌によせた追悼レポは→こちら

でも、川崎さんに教えていただいたことや楽しいやりとりを忘れることはありませんし、川崎さんの音楽は今も、そしてこれからもずっと、私たちとともに生き続けます。どうぞ皆さんも、これからも川崎さんを応援してあげてくださいねo(^-^)o

 

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