バレエピアニストの仕事場探検

 

 

皆さんは「バレエピアニスト」をご存知でしょうか?
私は当HPでは「chocoちゃん」の愛称でおなじみの張替夏子さんと親しくさせてもらうようになって初めて知りました。実は張替さん、作編曲や演奏活動の他にそのバレエピアニストのお仕事もされてるんですよ。その経緯など詳しくは、張替さんが初のピアノソロライブを開くにあたって行った私との対談をご覧くださいね♪→こちら

で、簡単に言えば「バレエのレッスンのときの踊りの伴奏」ということなんですが、実はそんな簡単な言葉では表せないほど高度な技術とセンスが問われる、奥深いお仕事なのです。では、一体どんなふうに奥深いのか…このたび張替さんの計らいで、そのお仕事現場を見学させていただける機会を得ました。バレエピアニストというお仕事をもっと広く世間に知っていただきたいという思いと、こんな無理なお願いを快く許可くださったバレエスタジオの先生や生徒の皆さんへの心から感謝の気持ちを込めて、私が見て聴いて感じたままを綴りたいと思います(*^^*)

 

2012年10月26日。
私は張替さんに連れられて、仲町台駅から徒歩1分のところにある「Ballet Studio 仲町台」に行きました。今回はこの教室の「プロフェッショナル・クラス」という、プロのダンサーやプロを目指すダンサーを対象とした「プロとしての正しいトレーニングをするクラス」を見学させていただくこととなりました。

 

  

 

ここで指導されてるのは、横瀬三郎先生。
このページの最後に詳しいプロフィールを書かせていただいてますが、横瀬先生は15歳でバレエを始められ、わずか3年後の18歳には谷 桃子バレエ団に入団されました。この谷 桃子さんという方は、1948年に東京バレエ団が「コッペリア」を日本初演したときに主役を踊られたり、あの有名な「白鳥の湖」のオデット役でその名を世に知らしめ、日本のバレエ界に一時代を画した方なんですよ。その谷 桃子バレエ団で横瀬先生はプリンシパル・ダンサー(バレエ団の最高位・主役のこと)として活躍されてた方なんです。

事前に張替さんから「とにかくすごい先生だから」「ときどき雑談することもあるけど、大体はピリッとした空気だから」というお話を聞いてたことと、そもそもバレエというものを生で…それも間近で見たことのない私は、実はかなり緊張してました。この機会を設けてくれた張替さんのためにも失礼のないように、でも固く暗くなりすぎないよう出来るだけ笑顔で、でもでもツーンとしてたりギロギロと睨む怖い系の先生だったらどうしよう…なんて色んなことを考えながらのご対面となったんですが、想像とは全く違う笑顔の優しい素敵な方でした。そして「ようこそいらっしゃいました」なんてあたたかく迎えてくださったときにはほんとにホッとし、心の中で「よっしゃ、第一関門クリア!」とガッツポーズをした私です(^^ゞ

スタジオ内に足を踏み入れるとレッスンに来られた生徒の中には私の存在に驚いてる方もいらっしゃいましたが、すぐにこれまた笑顔で承諾してくださいました。ほんと、ああいうときの笑顔がどれだけ私の心を和ませ落ち着かせてくれたか…ありがたいことです。そうしてちょっと緊張がほぐれたところで、さっそく取材の準備を始めました。

 

 

私はバレエの知識が皆無なのでスポーツの1つだと捉えると失礼に当たるかもしれませんが、それでも準備運動から軽い運動、少しハードな運動、いったん少し緩めたあとハードな運動で最後はクールダウン…と移行していく様は、やはり他のスポーツと似ているような気がしました。たとえば、これらの動きを野球に置き換えてみると、軽い運動はキャッチボールやノック、少しハードな運動は走塁練習、ハードな運動は塁間ダッシュという感じでしょうか。そうした流れを追いながら、張替さんの弾いた曲をご紹介したいと思います。

まず、それぞれの動きに入る前に、先生が口頭で動き方やテンポやイメージを生徒の皆さんに伝えています。先生の持ってらしたステッキでコンコンと床を叩いてテンポを指示したあと「パッセ」「バランス」「アティチュード」と言った感じなのですが、いきなり始まったバレエ用語のオンパレードに全く付いていけず…というか聞き取れず、私はただ呆然と「テレビで見る競りのオジさんみたいだなあ」なんて思いながら眺めてました。その口頭での説明ですが、ときにはその動きのイメージを先生ご自身が身振り手振りで表現されたり、即興でメロディにして口ずさまれるときもあります。それを張替さんが瞬時に感じ取って実際の音にしてる部分などもありますので、先生のご指導の声と張替さんのピアノとのつながりをよ〜く聴いてみてくださいね(^.^)b

 

 

 

 

1.全身の準備運動

 

ダンサーの動きを見て、その雰囲気に合わせて即興で弾いた張替さんのオリジナル曲です

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☆演奏者から一言☆

即興で生まれた音楽はその場限りとなる場合がほとんどですが、時々とても印象深い曲として心に残ることがあります。この曲はそのうちの1曲で、時々弾いています。
踊りの後半(再生1分後あたり)にゆったりと手足を伸ばすところがあるので、そこは伴奏系を変えて踊りの雰囲気と合わせています。


 

 

 

 

 

2.足の運動

 

ゆったりした動きの足の運動をショパンのワルツをもとにした音楽が支えます
後半(2分17秒くらい)からは原曲の雰囲気を残しつつ張替さんのオリジナルが入ってきます

次の動きに移った3分34秒から始まる音楽は完全に張替さんのオリジナルです
ぜひ先生のご指導と張替さんのピアノとの連携に注目してください

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☆演奏者から一言☆

原曲はどこか物悲しい出だしなのですが、踊りの優雅な雰囲気に合わせてアレンジしています。たとえば前半部分は本来は左手で弾くテーマを右手で弾き、後半部分は原曲のままだと尺が合わないので、オリジナルをくっつけています。

 

 

 

 

3.バランス中心の運動・ジャンプの練習

 

動画前半のバランスを中心とした動きの練習のときは
シュトルツというウィーン出身の作曲家のオペレッタをベースにした音楽が支えます

4分10秒から始まる音楽は、その直前に先生が口ずさんでる歌を聴き取り即興で演奏
そのあと動画は切れますが、約5分かけて体をクールダウンさせます

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☆演奏者から一言☆

シュトルツのオペレッタを、踊りの雰囲気に合うよう多少アレンジして弾いています。その後は先生のお手本を見ながら雰囲気を感じ取り、その場で即興しています。

クールダウンはみなさんが心地よい曲を提供させて頂いています。動画で弾いている曲は作曲家、中村由利子さん作曲の「追憶の街」冒頭です。クールダウンは約5分間。その間先生から合図があるまで弾き続けます。


 

 

 

 

4.飛び跳ねながら走る運動

 

バーレッスンは終了して、フロア全体を使った練習に移ります
動画では張替さんの肩のあたりで鏡越しに少しレッスンの様子が見えるかと思いますが
左右にぴょんぴょん飛び跳ねながら前進していく運動で
それに合わせた軽快なピアノ演奏は張替さんの完全オリジナルです

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☆演奏者から一言☆

1つ目の動画と同じで最初は即興で演奏したものが心に残り、そのままレパートリーになったオリジナル曲です。男性ダンサーは女性よりジャンプ力がありますので、男性のときにはテンポを少し落とします。

 

 

 

 

5.さらに激しく飛び跳ねながら走る練習(アレグロ)

 

先ほどよりさらに速く飛び跳ねながら走るという激しい動きを見ながらの演奏です

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☆演奏者から一言☆

これも即興からレパートリーになった曲です。とにかく楽しく、軽快にという雰囲気で。
ここで既に1時間20分くらい弾きっぱなしなので、実はとても疲れています。
脱力を心がけていても人数分繰り返し弾いて、更に左右から繰り返しがあるともう腕から火が出そうになります。でもガマンガマンです!最後の辛抱(笑)。

 

 

 

 

6.クールダウン

 

全てのレッスンを終えて、酷使した筋肉をほぐすクールダウンの動作です
張替さんの優雅な即興演奏を、美しくしなやかなダンサーの皆さんの映像とともにお楽しみください

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☆演奏者から一言☆

その雰囲気に合う曲を即興しているのですが、1つ前の激しい動きに合わせた演奏の直後で結構頭も使いきっているので、若干放心状態で即興しております‥‥。

 

 

 


いかがだったでしょうか?

3つ目の動画の後半のように少しクールダウンさせることはありましたが、見学させていただいた1時間半ずっと緊張の糸が切れることなく踊りっぱなし、弾きっぱなしという感じでした。余談ですが、レッスンの後半はダンサーの皆さんの指先が私の鼻先に触れるんじゃないかと思うくらい互いの距離が縮まったことが何度かあって、思わず息を止めてしまうこともありました。でも、その緊張がまた心地いいんです。ほんとは張替さんのピアノに集中すべきなのに、気がつくとダンサーの皆さんが創る美しい曲線や筋肉に見とれてて取材を忘れることもあったくらいです。

 

さて、こうしたレッスンを見せていただいたあとに浮かんだ私の素朴な疑問や事前に数人の友達から集めた「バレエピアニストに聞いてみたいこと」を、張替さんにぶつけてみたいと思います(^.^)b

 

 

Q:なぜバレエピアノをやろうと思ったのですか?

A:大学3年のときに同じ作曲科の先輩から紹介して頂いたことがきっかけでバレエピアノに出会いました。ピアノを弾くことがお仕事になるということを初めて体験したことでしたし、なにより踊りという音楽とは違う世界にいる人たちとの関わりが持てることが嬉しかったからです。あとは自分が持っているものを活かせるかも知れないなと思えたからだと思います。

 

Q:どうしたらバレエピアニストになれるのですか?何か資格が必要だったり、音大を出てないとダメということがあるのでしょうか?

A:養成所のようなところもあると聞いたことがありますが、私は先ほども言いましたが学生時代に同じ学校の作曲科の先輩からの紹介がきっかけで始めることになりました。1回見学に行っただけでもう次の週からフリーのクラスを担当することになり、最初は本当に手探り状態でした。知り合いのバレエピアニストさんは生ピアノでレッスンしているお教室を探し、自ら門を叩いたそうです。というように、いろんなケースがあると思います。それから、私が今までお世話になった、現在もお世話になっているお教室では特に資格はいりません。特に音大を出る必要はありませんが、音大出と同じくらいのテクニックはあった方が良いと思います。

 

Q:お仕事はどこか事務所に所属するとか、特定のバレエ教室と契約するという形で入ってくるのですか?また、お仕事の前に準備しておいた方がいいものや、特に練習しておくことはありますか?

A:バレエピアニストのお仕事は各々のバレエ団やバレエ教室などで様々な取り決めがあると思いますので、一言で言うのは難しいのですが、私の場合は、横瀬先生の所では毎週金曜日のクラス、もうひとつのお教室では曜日でピアニストさんが決まっています。そして事前準備のことですが、もし事前にそこのお教室でのレッスンの流れなどが見学出来れば、ピアニストさんがどのようなレパートリーを弾いているかチェックしたり、メモしたものを見返したりして、自分がレッスンで弾く場合にはどのような曲を持っていこうかと計画を立てることが出来ると思います。私は最初は特に何も準備せず、踊りを見て即興で弾いていましたが、だんだんとこんな曲も合うかな?この既存の曲はどうかな?とその場限りで終わってしまう即興演奏だけではなく、レパートリーとして曲を徐々に増やすことを心がけるようになりました。

 

Q:バレエピアニストのお仕事だけで、生活は成り立ちますか?

A:それはとても難しいと思います。仕事としてフルタイムと同じように朝から晩まで弾き続けていて、身体を壊してしまったピアニストさんのお話も聞いたことがありますし、レッスン自体が朝から晩まであるお教室もそこまでたくさんあるわけではないと思いますし‥‥。でも大きなカンパニーなどでは就職という形もとっている、と聞いたことがありますので、そういうところでのピアニストさんはバレエピアノのお仕事だけで成り立っていると思います。

 

Q:バレエピアニストのお仕事のほかに別のお仕事を掛け持ちできますか?

A:それぞれのお教室やバレエ団によって違ってくると思いますが、フルタイムでお仕事がある場合以外は可能ではないでしょうか。でももし音楽以外のお仕事だとしたら、バレエピアノを弾くことに支障がでないお仕事の方が良いかも知れません。バレエピアノは結構体力勝負なところがありますし、同時に頭もフル回転させなくてはならないので、きっと想像以上に心身共に疲れる仕事だと思います。

 

Q:バレエピアニスト専用の楽譜があるのですか?

A:楽譜屋さんに行くと結構バレエ用の譜面があるんですよ。いわゆる有名なバレエの演目の譜面や、オリジナルのレッスン用の曲の譜面まで!でも、結局はそのときそのときで踊りに合う曲を自分で用意しなくてはならないし、サイズも違うものを要求される場合があったりするので、どこかしらに手を加える(もしくは適当にアレンジ)することが必要になります。私は現在、オペレッタの曲をバレエで弾くことにハマっています♪とっても明るい雰囲気が踊りと合うんですよ。

 

Q:既存のクラシック曲をベースにする場合、事前に先生に「この曲なんかどうですか?」など、お尋ねするのですか?

A:私はお尋ねしたことはありません。もしこちらが提示したテンポや拍子、雰囲気などが違う場合はその場で先生から訂正されます。その場合は瞬時に先生が要求する曲を弾かないとなりません。

 

Q:動画を見ると先生がステッキでテンポを指定してくれてますが、どこのお教室でも先生がテンポの指定をしてくださるのですか?

A:私の経験上ですが、自らテンポを提示して下さる先生がほとんどなのですが、横瀬先生のようにとても明確に「かなりゆっくりのワルツ下さい」とか、「2拍子のような速い3拍子下さい」という言葉と一緒にテンポを先に提示して下さるやりかたのほうが、私にはとても有難いです。
それに、踊りにとってテンポはとても重要なのにも関わらず曖昧な提示をされてしまうと、音楽の面しか知らない私にはなかなかテンポを決めることが難しいことのひとつだったのですが、横瀬先生の分かりやすい説明と明確なテンポを下さるおかげでだいぶ助かっていますし、ひとつひとつのエクササイズの特徴を捉えられるようになってきました。これはバレエピアノをする上でとても横瀬先生に感謝していることのひとつです。

 

Q:張替さん自身はバレエの経験はありますか?

A:残念ながら無いに等しいです。通っていた幼稚園に週何回かのバレエ教室があったので母親が習わせたくて通わされていたみたいなのですが、1人で踊ることがどうしても恐怖ですぐに辞めてしまいました。そんな私がまた違った形でバレエの世界と関わることになるとは、と母親も驚いていました。あんなに嫌がって泣いてたのに、って(笑)

 

Q:バレエピアニストはバレエの知識があった方が良いのですか?バレエに疎いと、バレエピアニストになるのは難しいですか?

A:知識はあった方が良いとは思います。しかし、バレエの世界も奥が深く、そう簡単にはいきません。ですので、ピアニストとして関わっていくうちにいろいろと覚えていくのでも問題はないと思います。
私も実はバレエの専門的な言葉や動きにものすごく詳しいわけではありません。私自身もともと運動神経が残念なくらいありませんので、今現在も足の動き等の説明を見ていても残念ながら全てを理解することは難しいですし、踊りの素人がそんな簡単に分かるものでもない‥‥とも思っています。そんな私でもなんとかこうしてバレエピアノを続けていますので、演奏が踊りと合っていれば大丈夫ではないでしょうか。それにバレエの世界に関わっているというだけである程度の知識が徐々に身に付いてきますので、最初からバレエに特別詳しくなくてはいけない、ということはないと思います。ただし、バレエピアニストのオーディションなどで、どの程度バレエに理解や知識があるかなど、聞かれることもあるそうです。そのバレエ教室やバレエ団がピアニストにどこまで求めているのかということになってくると思います。

 

Q:バレエピアニストは初見が利かなければいけないという話を聞いたことがありますが、本当ですか?

A:私の経験上でお話しさせて頂ければ、かなり初見が出来ないと難しいです。それも一度始まったらその踊りのテンポで、絶対に止まることは出来ませんので、何がなんでも最後まで弾ききらないとなりません。一度ピアノのテキストがあるクラスで、1時間半、約20曲ほどの初見をお願いされたことがありますが、終わった時にはもう目が充血して大変でした。ドライアイ寸前でした(笑)

 

Q:小さい頃から音楽と親しんでいた張替さんが、バレエピアニストに活かされているなあと思うことはありますか?

A:私は小学校高学年くらいまで正確に譜面を読むことが出来ませんでした。そのときにどうやってピアノを弾いていたかというと、聴いた曲を覚えて自己流に伴奏をつけていたんです。それがとても楽しかったし、自由にアレンジしすぎて、何の曲だったか分からなくなることなどもしばしばで…(^_^; ですので、例えば既存の曲をこの踊りの雰囲気で、とか、レッスン中に先生が歌うメロディーをそのまま頂いてアレンジして即興することもあります。アレンジや即興が好きなのは、小さい頃楽譜が読めなかったおかげかなぁ、と思います(笑)

 

Q:バレエピアノの一番おもしろいところはどこですか?

A:曲のテキストがないクラスで弾く曲に関しては本当にピアニストの自由なので、今日はこんな気持ちだからこういう曲を弾いてみようかなとか思って選曲しているのですが、そうやって単純に自分で選んでアレンジした曲が踊りととても合った時や、またその逆のことを発見したときにはとても楽しいです。さらに言うと、踊っている方や先生にはとても迷惑なお話しかも知れませんが、「意外と合わなかった!」という経験の方が私にとっては一番おもしろい!と思う瞬間です♪

 

Q:どんなところにバレエピアノのやりがい感じますか?

A:1つ上でお話したようなことを踏まえて滞りなくレッスンが終わったときは、本っっっっ当に充実感があります。日頃1時間半ずっと緊張してピアノを弾き続けることってなかなか出来ないことなので、ピアノを弾ききった疲労感と自分の選曲にとりあえず間違いがなかったこと等、ダンサーのみなさんの真剣なレッスンにこちらは演奏者として参加しているという充実感を得られることが、バレエピアニストとして一番やりがいを感じることだと思います。また、楽器ととは違う、踊りとのコラボレーションが出来ること、本気で踊るダンサーさんの迫力を肌で感じられることや、子供達の楽しそうな笑顔が見れた時にもとてもやりがいを感じます。

 

Q:バレエピアノの難しいところを教えて下さい。

A:バレエピアノに携わっている方からしてみると当たり前のことなのですが、まずは毎回のレッスンがどのような流れになるのか事前には分かりませんので、先生が踊りの説明をされている短い時間内で曲を用意したり、自分のタイミングでは弾き始められないところ。レッスンを受けている人数によって用意している曲にアレンジが必要だったり、弾き始めた曲が踊りと(先生のイメージと)合わないときに瞬時に違う曲を用意しなくてはならなかったり、たくさんの初見をこなさなくてはいけない時だったり、人数が多いクラスでは人数分フォルテの音を引き続けなくてはならなかったり‥‥。とにかく「弾けて当たり前」という世界なので、泣き言は言っていられないところだと思います。

 

Q:バレエピアニストと普通のピアニストの一番の違いは何ですか?

A:私が思うふたつの違いは、バレエピアノとはそこに踊りがあって演奏が成立していると言うことだと思います。弾くことだけに没頭することは出来ないし、かといって集中していない演奏は踊っている方にも失礼に当たりますので、その配分がとても難しいですが‥‥。

 

Q:張替さんの考える、バレエピアニストにとって大事なこととは何ですか?

A:正確なテンポ。ピアノを弾くことだけに集中しない。たくさんのレパートリー。即興。初見。フロア全体の流れを把握出来る冷静な目。たとえ失敗しても反省し、落ち込みすぎない精神力などなど…。私もそれらを高めていかれるよう、日々精進です!

Q:バレエピアニスト特有の職業病などはありますか?

A:新しい曲と出会った時、バレエの曲として使えるかを考えてしまいます。バレエのエクササイズはほとんどが16カウントとか、32カウントとかサイズが決まっていますので、思わずカウントを数えたりしてしまいます。そのまま使えるかな?とか(^_^;

 

Q:今までのお仕事で、感動した出来事があったら教えてください。

A:今まで音楽という世界で個人プレーが多かったので、(合唱のピアノ伴奏や、作曲家という立場、バレエピアニストも1人でのお仕事ですよね)様々なジャンルにおけるチームワーク、チームプレーというものに、異常な憧れを持っているんです(笑)ですので、特に発表会シーズンは、綺麗な衣装を着けた生徒さんたちが合同でリハーサルなどをしていて、そのレッスンピアノを弾いていて、ふと笑顔で楽しそうに踊っている生徒さんたちを見て感動してウルウル‥‥なんてこともしばしばです。バレエは笑顔で踊ることが基本だと思いますが、それでも心から楽しそうに目を合わせて踊っている光景にはグっときます。実は泣きそうなのをこらえながら弾いています(笑)

 

Q:何か、おもしろい失敗談はありますか?

A:バレエピアノにおいての失敗は、踊りのサイズと曲の長さが違ってしまったり、選曲した曲と踊りの雰囲気が合わなかったということだと思います。合わないまま踊りが終わらないで最後までいってしまうときはとても申し訳ない気持ちになりますし、弾き始めてすぐ先生に「そういう雰囲気じゃなくて‥‥」と止められてしまうときには申し訳ない気持ちとともに、すぐに気持ちを切り替えて先生の要求する音楽を用意しないとなりません。正直言ってレッスン中は落ち込んでいる暇はありません。そして残念ながら私はおもしろい失敗の経験がまだありません〜。今後、おもしろい失敗をしてしまったらぜひお伝えさせて下さい(あまり失敗はしたくありませんが 笑)

 

Q:将来は音楽に関する仕事に就きたいと思っているけれど、具体的にどんな仕事があるんだろう?と思っている人に、バレエピアニストのお仕事のおすすめ点があったら教えてください。

A:あまり表舞台に出ることはありませんが、バレエという芸術のレッスンの一員になれることで、ピアノを1人で弾いているときには感じることが出来ない踊りとの一体感や、そこに存在する音楽の(自分の演奏の)意味が身を持って感じられる数少ないピアノのお仕事だと思います。

 

 

…以上です。張替さんが赤裸裸に語ってくれたので、バレエピアニストのことが色々と分かっていただけたんではないでしょうか。このコーナーはまた質問が寄せられたりしたら、随時更新していければいいなあなんてことも考えています。ここが気になる!こんなことを聞いてみたい!なんてことがありましたら、お気軽にこちらまでメッセージをお寄せください。張替さんと協力して、できる限りお答えしていきたいと思いますo(^-^)o

 

 

 

 

レッスンを終えられたあとの横瀬先生と張替さんの2ショットです(*^^*)

 

 

 

 

いま思い返しても本当に胸が熱くなる、このレポに貼ってある動画を見るたびに「できればまた見に行きたい!今度は取材じゃなく素であの空気全体を楽しみたい!」と思うほど素敵な1時間半でした。取材中に先生から「一緒に踊りますか?」なんて声をかけていただいて、そのたびに「と…とんでもない!」と大きく首を横に振るほど私は体を使っての踊りは全くダメですが、心は踊りっぱなしでした。

厳しい中にも優しさがありユーモアがあり、そして和やかさやあたたかさが教室全体を包んでいる…私がとても好きだと思う、そして何かを習う・共に造り上げるという場において、最も大事なんじゃないかなあと思ってるものがここにはありました。だから余計に、あの息が詰まるほどの緊張感もあとになってこんなにも心地いいんだと思います。

貴重な経験をさせてくださった横瀬先生とスタジオの生徒の皆さん、そして取材からレポ作りまで協力してくれた張替さんに心からの感謝を込めて、このレポを終わります。

 

 

 

 

横瀬三郎先生
(よこせさぶろう)

福岡県のご出身です。15歳からバレエを始められたのと並行して音楽学校にも通われ、ピアノを青山三郎氏に、作曲を松本民之助氏に師事して研鑽を積まれます。そして18歳で日本のバレエ界の草分け的な存在である谷桃子バレエ団に入団、谷桃子女史に師事。

その後、1960年にチャイコフスキー記念東京バレエ学校に創立と同時に入校され、ボリショイバレエ団のA・ヴァルラーモフ氏やS・メッセレール女史に師事されます。また、ヴァルラーモフ氏のクラスレッスンを受講される傍らでメッセレール女史のジュニアクラスのレッスンピアノを担当されるなど、音楽学校で培ってこられた才能を遺憾なく発揮されます。

谷桃子バレエ団に復帰後はプリンシパルダンサー(バレエ団の最高位・主役)として「白鳥の湖」「ドン・キホーテ」「くるみ割り人形」「コッペリア」等で公演の主役を務められます。そして後年は「白鳥の湖」で谷桃子女史のパートナーとして踊られ、バレエ団員クラス及び研究生クラ スの教師として活躍されていらっしゃいました。

社団法人日本バレエ協会理事、社団法人神奈川県芸術舞踊協会理事・副会長として長年活動された後はフリーとなられ、現在は横浜市でバレエスタジオ仲町台を主宰され、クラシックバレエの指導と創作活動に力を注いでいらっしゃいます。

 

先生の主な創作作品
「讃歌」「シンフォニックバリエーション」「タランチュラ」「カルメン」「妹のような恋人」「春の祭典」
「カルミナブラーナ」「水平線のホフマン」「とある男の物語」「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
「地球讃歌」「マイバージョンスワンレイク」その他

 

 

 

 

張替 夏子さん
(はりがえなつこ)

桐朋学園大学作曲理論学科作曲専攻を卒業されたあと同大学研究科作曲専攻も修了されます。その後はミュージシャンコーディネーター(通称インペク屋さん)として約5年間に渡り「ワンピース」「ポケモン」など数多くのスタジオレコーディングをコーディネートされてきました。

退社後はフリーとなり、「Reunion」での自作曲の演奏をはじめ、ミュージシャンやボーカリストとの共演など様々なジャンルでの音楽活動を展開中です。

また、今回こうしてレポさせていただいたバレエピアニストとしても活躍されてるほか、2012年10月10日には初のピアノソロアルバム「私のコンパス」をリリースされました。そのアルバムの発売記念として3回のライブを行い、今後の更なる活躍が期待される音楽家さんです。

 

 

 

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