田中公平さん・作家生活30周年記念コンサートの中継車見学レポート

 

2009年11月1日。新宿厚生年金会館で行われた、作曲家・田中公平さんの作家生活30周年を記念するコンサートに行くために、1年ちょっとぶりに上京することとなりました。

そのときに「できればレポに登場していただいてる方々に、この機会にお会いしたいなあ」なんて思って色んなところに連絡を取ってると、エンジニアの中村さんから「コンサートの一部をDVD化することになって、当日は中継車にいることになったよ。中継車の中って見たことある?見にくる?」なんていう飛び上がるほど嬉しいお言葉をかけてもらって、遠慮なくお邪魔することにしました〜!

その、中村さんから電話をいただくまでの経緯は前にブログのこちらに書いたので、合わせて読んでみてくださいね(^.^)b


私がお邪魔したのは午後2時半ごろ…ちょうど「ワンピース」のリハーサルをしてました。

その中で、声優さんが順に入れ替わりながら歌うところで誰がお1人だけ声量の少ない方がいらしたんです。で、私が「あら、ここだけボコッと落ち込むなあ…」なんて思うのと同時に、さっと中村さんがどこかを触って音量を調節してました。


何かそれに感激して「あ、こうやって音の大きさをそろえるんですね〜!」って言うと「ここではまだいいけど、ホールの方はこうなったら大変だよ」って言うので何のことかと思ったら、ホールのPAと中村さんがやってるのとは、また別なんだそうです…相変わらず無知ですみませんm(__)m

つまり、中村さんがやってるのはDVDに収録するための音録りで、いわば後からの調整もできるんだそうです。でも、ホールのPA担当さんは即座にそういうのに反応して、音量をそろえてお客さんに聴かせなければいけないので大変なんだということで…って、今さらこんな説明は必要ないですかね(^^ゞ

その中村さんからはエンジニアさんの立場から見た今回のコンサートについて、とても深く面白いコメントをいただきました。以降、私の文と中村さんからいただいた文は色を変えておきますので、どうぞ読んでみてください♪

 

さて収録ですが、20周年の時はまだプロツールズじゃなかったんですよねー、時代を感じます。
まだプロツールズが96kHzに対応していない時にデジタル・パフォーマー(デジパ)という民生用のソフトウェアを使って録ってました。バックアップではまだSonyの3348も回してましたが、このころがテープに録音する最後ぐらいだったのかも。民生用だったので録った後の編集にはデジパはまだまだ能力不足で苦労した覚えがあります。

でも今回は公録のプロ中のプロ、SCIさんの中継車(5号車)が出て、プロツールズ2台の万全の体制で、機材環境的には不安はありませんでしたね。

とはいえゲスト・ボーカルが大人数なおかげでボーカル回線だけで16〜21回線、さらにVOJAには1本ずつマイクが立っていたので、こちらも16本。あわせてボーカルだけで最大37回線!

それにバンドとオケをあわせて合計で92回線というライブ録りとしては例をみない回線数にはビビるものがありましたねー。調整卓は60回線しかないので、ティンパニー4回線をモニターはモノ、というふうに節約して、なんとかバランスをとれる状態でやりくりしていました。

ところで、ライブの時は会場の雰囲気を拾うために必ずアンビエンスのマイクを立てて(実際はぶら下げて)います。フロントは3点吊りと言って、ケーブル3本をリモートコントロールで前後、上下の自由な位置に固定できるもので、通常ホールには必ず備え付けで、マイクケーブル込みであります。今回はノイマンのSM69という有名なステレオマイクを使っています。

通常ステレオ収録する時は2本の同じマイクをLとRに90°から120°ぐらい振って収録するのですが、今回SM69を選んだ理由は、このマイクだと指向性を切り替えてM-S収録ができるからです。
M−S収録とは2本のマイクをMid(単一指向性で、正面向き)SideS(双指向性で、Midに対して左右90°の指向性になるように向けます)に分け、デコードトランスを使って、普通の左右のステレオに録音する方法です。これが通常のL−R収録より優れている点はセンター定位がはっきりするということです。

さらに今回はデコードトランスをモニターにしか使わずトラックにはM−Sのまま録音しました。
これはなぜかというと、自身が所有する「brainworx_music」という会社のプラグ・インでこのM-Sを自由な幅でデコードできるからです。

これであれば、ミックスをする段階で、個別に立てた楽器のバランスをとって定位したものに対してSRで会場で鳴っている音を混ぜる時に左右の広さをコントロールできる、かも、と考えたからです。(実際はどうなるか試してみないとわかりませんが…)

アンビエンスはもう2本、2階席の前ぐらいにぶら下がっています。これにはBKの無指向性マイクを使ってますが、これはもうほとんど会場の拍手などを拾うもので、ミックス時には曲間でしかレベルを上げません。なぜならステージから10m以上あるので、SRの音とディレイが生じるからですね。

ですが、その距離のおかげで会場の雰囲気がでるんですね。もし5.1chのオーダーがあればリア側にふることで、リアルな音場も再現できることになります。

 

以下↓は中村さんからいただいた「ステージ配置」と「マイクの回線表」と「調整卓立ち上げ」の参考資料です。それぞれをクリックすると、別窓でpdfファイルが開きます。

ステージ配置       NEVE       HA input

「NEVE」と「HA input」というのは私にはサッパリですが、「ステージ配置」っていうのはコンサートに行った方はもちろん、行ってない方も納得のいく資料だと思いますよ(^.^)b


中村さんのお話はまだまだ続きますが、取りあえずここらで私が撮った写真なんぞを…

これは調整卓をアップで撮ったものですが、よく見ると1つ1つに「山口」「大谷」「田中」…と声優さんや公平さんのお名前が書かれてるのが分かりますか?

あ、「田中」って公平さんのことじゃなく、田中真弓さんのことかなあ?

とにかく、これが中村さんのお話にあった「ボーカルの回線」なんだと思います。写真にマウスを乗せると、楽器の回線になりますよ(^.^)b


最近のSR(会場のPAやモニター)周りのS/Nの良さには目を見張る(耳をかっぽじる!?)ものがあり、ノイズの面では収録のやりやすい状況でした。ただこちらは中継車が入るのが当日だけなので、ゲネプロと本番だけのほぼぶっつけ本番ですから半端じゃない緊張感でした。まぁそれでもゲネプロである程度様子がみえると(ゆみさんが見学のみえたころには)落ち着きを取り戻しましたけど…。

今回の収録はSEGAさんからサクラ大戦関連の1部のDVDが発売されるための音楽録りでしたが、サクラ大戦ものはそのほとんどの楽曲を自分で録音、ミックスしてきたので、アレンジはステージ用に変えてあるとはいえ、バランスや歌い手さんの出入りなどが記憶にあって、スムーズに収録をやっていくことができました。

第2部に入って、PA周りのハウリング(実は中継車側では会場でハウっていることがよくわからず何だなんだーって感じだったのですが)のせいで、多少収拾のつかない時もあって、苦労したのですが、それでも打ち上げ会場で、参考用に録っていたCD-Rを聞いてイマジンの根岸くんや松尾くんが(コンサート会場より)「ちゃんとしてる(録れている)じゃん」と言ってくれたのでほっとしました。

スタジオの録音の時と違って、ステージ上では音の大きい楽器(ドラムやブラス)も音の小さい楽器(弦楽器やフルート)もセパレートされずに一緒に演奏します。するとどういうことが起こるかというと、ストリングスのマイクには他の音の大きい、いろんな音(ボーカルの人が聞くモニタースピーカーの音を含む)がいっぱい入ってくるのです。

それを避けるためにストリングスにはiSOMAXというコンタクト・マイク(こちらのページの使用例を参照)を使ったりしています。弦のきわで録るので「良い音」とは言い難いですが、こうでもしないと「かぶり」(本来録りたい楽器の音以外の音が入ること)でそれこそバランスの収拾がつかないわけです。

あと、アコースティックギターも音が小さい楽器の部類ですが、これはピックアップという弦の振動を直接拾うマイクがギターに仕込まれていて、これからラインで録音しています。

フルートも普段はコンデンサー・マイクですが、音質的には劣るダイナミック・マイクをかぶりを避けるために指向性の方を重視して使ったりして、各マイクのセパレーションをとっているのです。


またここで私の撮った写真を…(^^ゞ

私は初めて生で見るこの調整卓のボタンの数の多さにビックリし(前に藝大の亀川 徹さんの職場で見たのはもっとずっとシンプルなものでした)、その色んなところに何の迷いもなくサッと手を伸ばして何かを調節してる中村さんのお仕事姿に惚れ惚れしました(*^-^*)

なので、できるだけ調整卓の迫力が伝わるような撮り方をしたんですが、どうでしょうか…写真にマウスを乗せると、別カットになります(^.^)b


さて録音の方ですが、プロツールズも1台だと同時録音トラック数による負荷が心配なので、2台をシンクをかけて録っています。今回はDVD用で映像も回っていますので、Word SyncにGen Lockといって、ビデオ機器との同期をとるためのシンクもかけています。これはなんのために必要かというと、ビデオは1秒間に30フレーム、60フィールドという細切れの静止画の連続です。デジタル・オーディオの方は今回の場合48kHzで録音していますので、秒48,000のフレームで録音されています。

ビデオと音楽を別々の機械で勝手に「回して」録音、録画しますと、長時間の間にズレが生じて、会場でスクリーンを見ていた方が映像が遅れてるなーと違和感を感じられたように、あとでMA作業(画像と音をあわせること)する時にどこで合わせてよいか頼りにするものがない状態になります。

それでWord Syncというデジタル録音、録画をするための基本クロック(クロックといってもパルス情報だけで時間情報がありません)に時間情報であるSMPTEをシンクさせます。

48,000回のパルスに例えば最初のパルスが19時0分0秒ですよー、という情報をのせるのです。これによって何時間回しても、別々に録ったビデオと音を後で合わせやすくするわけですね。まぁこのシンク関係の話はプロでも非常に難しいことなので、一般の方は理解に苦しむでしょうけど…。

収録の終わったプロツールズのデータは本番だけでおよそ200G(1Gは1,000Mbyte(メガバイト)で、普通のCDがめいっぱい音を詰めて740Mbyteですので、CD約270枚分)の容量となりました。これから年内にこつこつとTDしてまいります。

 

…以上です。

かなり難しい部分もありますが、こんな内容はそうそう聞けるもんじゃないですよ〜。こんな風にして、あのコンサートがDVDになっていくんですねえ…DVDを買われた方は、是非こうした舞台裏のことも想像しながら楽しんでくださいねo(^-^)o


これらは調整卓の左前(上の中村さんが写ってる写真でいうと、画面の右奥)にあった何かのモニターっぽいものです。

で、1番上の写真にマウスを乗せたときに出てくる画像をよく見ると、調整卓の前面に赤っぽい棒グラフみたいなのが何本もあるでしょ?

あれが皆さんの歌声や話し声に反応して上下にピコピコ動くんですが、このパソコンっぽい画面の中でも同じような現象があったような…(^^ゞ


余談ですが、この中継車に入れてもらったとほぼ同時くらいにヴァイオリンのマサさんから「まだリハが終わらない〜」「おなかが空いた〜」みたいなメールが来たんです。だから「いま中継車からリアルタイムで見てるよ♪」って返信しながら中村さんに「マサさんから‘おなかが空いた’ってメールが来た」って話すと、モニター画面を指差して「あはは! いま、あそこからメールしてきてるわけだ」なんて言って、笑い合いました。

あとでタジタジさんに聞いたところによると、私がマサさんに送ったメールをタジタジさんや城戸さんに見せて「いま、ゆみちゃんが中継車から見てるって〜!」なんて言って盛り上がってたそうです。リハの真っ最中に何をやってんだか…(^^ゞ

その後、14時40分ごろにまた「まだ5曲あるよ〜!」なんてメールが来たんで、中村さんと「まだ5曲あるの?」「あ、そうだねえ…ちょっと開場が遅れるかな?」「こんなギリギリまでやって、体力は大丈夫なんかなあ」なんて話をしながら曲間にやるMCのリハを見守ってました。で、コンサートのラストを飾る「虹色」の大合唱をドキドキ大興奮で聴かせてもらったところで「バンドの皆さん、お疲れさま!」って声がかかってバンドの方々がステージから引き上げつつあったので、私も中継車から失礼することにしました。

それが15時10分か15分くらいだったんですが、実はそのあともまだ少人数でリハは続いてたそうなんです。いまにして思えば、そんなギリギリまで全力でやってて、それでも本番ではさらにパワフルになってて、公平さんや出演される皆さんの体力と気力、そしてこのコンサートへの意気込みに胸がギュッとする思いでした。

貴重な体験をさせていただいた中村さん、ありがとうございました(*^-^*)

 

2009年11月7日

 

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