インペク屋さんのお仕事 Q&A

 

おっちゃんの仕事場探検」にときどき出てくる「インペク屋さん」という言葉、大体の意味は「スタジオ用語辞典」を見ていただくと分かるかと思うのですが、ここではその実際のお仕事ぶりに少しだけ迫ってみたいと思います。今回、某インペク会社に入社3年目の明るく元気な新人(?)インペク屋さんにご協力いただきました(^o^)

いつも、おっちゃんから聞くインペク屋さんとのやりとりの中で私が疑問に思ってること、レポを読んでくださってる方から寄せられた質問などをQ&A方式で並べてみましたので、ぜひ読んでみてください。そして、作曲家さんたちが大事に書き上げた楽譜をいい音楽にするために、おっちゃんたちミュージシャンの皆さんが気持ちよくお仕事に臨めるために、いかに大事なお仕事をしてくださってるかを知ってあげてくださいね♪

ただし、各インペク会社によって色んなケースがあると思いますので、これはあくまで一例として捉えてください

 

 

誰から、どういう形でお仕事を依頼されるのですか?

最初に音楽制作会社の担当の方からお電話があります。
あ、 この場合の「音楽制作会社」とは作家さんたちの所属事務所を指し、その「担当の方」とは作家さんのマネージャーさんを意味しています。

電話の内容としては「○月○日に、○○(楽器名)で、○○(ミュージシャン)のスケジュールあたってみて下さい」といった感じです。

 

インペクさんの裁量で「この方はいかがですか?」とミュージシャンを推薦すること等はあるのでしょうか?

同じ楽器のミュージシャンでも人それぞれ十人十色、カラーがありますから、作家さんの方から相談された場合にのみ、こういう曲調のときはこの人、というカンジでオススメすることはあります。

 

その依頼を受けたあと、インペク屋さんとしては何をするのですか?

まず、指名のあったミュージシャンのスケジュールを聞くために、所属している事務所に問い合わせます。おっちゃんのようなフリーの方には、直接お電話をします。そこでスケジュール調整がうまくいけば、ミュージシャンの手配はOKです。

でも、すでにその方のその日のスケジュールが埋まっていたら別の方に当たってみるのですが、やはり「どうしても○○さんでなければ…」と言った場合は、録音の日にちや時間を変更することもあります。とはいえ、まだこの時点では「仮押さえ」という状態なんですよ。

こうして仮押さえをしたあと、だいたい1〜2週間のうちに時間や場所、録音の内容が確定します。このとき、大きな編成の場合は作家さんから編成表が送られてきますので、それをもとに各セクション・各ミュージシャンの時間割を決めます。これを「決定」といい、仮押さえをさせていただいてたミュージシャンの皆さんにまたお電話を入れて「決定になりました」とお伝えします。場合によっては、スタジオにも当日の流れを記載した表をFAXします。

次にすることは、録音の当日に必要になる「支払い案内書」を作ることです。
ミュージシャンのギャラというのは、録音したその場でお支払いするケース(これを業界では‘とっぱらい’と言います)と、あとで振込にさせていただくケースとがあるのですが、支払い案内書とは当日「とっぱらい」のミュージシャンの方にギャラの受け取りのサインを書いていただく領収書のようなものです。
この「支払い案内書」に、日時やスタジオの場所、作家さんのお名前や作品のタイトルなどをあらかじめ書き込んでおきます。

この書類などの準備ができたら、あとは録音当日の1〜2日前にミュージシャンお1人お1人に「明日の確認です」と、もう一度、時間とスタジオの場所、作家さんの名前と録音の内容を確認する連絡を入れます。レンタル楽器などがあるときは、レンタル屋さんにも確認の連絡をします。

 

録音当日は、何をするんですか?

大きい編成のときは約1時間前に、小さい編成のときは約30分前に現場入りして、当日の編成表と、メンバー表を必要な部数コピーし、(必要な場合はスコアやパート譜もコピーするときもあります)譜面台にパート譜を並べます。で、いざ録音が始まると、調整室の特等席で素晴らしい演奏を聴くことが出来ます(笑)

録音が終わったミュージシャンの方たちに順番にお支払いを済ませ、全体の録音が終了したらスコアを回収して、仕事は終わりです。

 

回収したスコアはどうするのですか?
一定の期間、またはずっと、インペク会社に保管しておくのですか?

これは、ほとんどの場合がマスター(元の譜面)だけを残して、あとは破棄します。ここには、盗作や二次使用を防ぐ…といった目的を中心に、さまざまな事情があります。

 

自分がコーディネートした録音現場には、立ち会うんですか?

個々のミュージシャンへのギャラに関する事務作業があるので、基本的に立ち会います。もし、そうした事務作業が後日に回せるような場合でも、楽譜や曲順表などの書類のコピー取りなどの雑務があるので、大体は立ち会います。

調整室には色んな方がいますが、エンジニアさんやアシスタントさんは本来のお仕事である音関係がお忙しいですし、音楽制作会社さんもクライアントさんとの打ち合わせなどでお忙しいので、インペクが雑務をすることが多いのです。

 

もし、いくつかの現場が重なったら、どうするんですか?

不思議なことに、重なった現場の両方で事務作業が必要だった…ということが、今までほとんどないんです。どちらかは「後日でOK」なことが多いので、最初だけ顔を出してご挨拶して「あとはよろしくお願いします」といった感じで次の現場に向かったりしています。

でも、どうしても両方で事務作業が必要なときは、うちの会社の場合はどちらかに社長が行ってくれることになっていますが、そういうことは滅多にないので大丈夫です。

 

スタジオを押さえるのも、インペク屋さんのお仕事なんですか?

スタジオを押さえるのは音楽制作側(作家さんの所属事務所およびマネージャー)の仕事なので、インペクはノータッチです。

 

弦は○時から○時まで、木管は○時から○時まで…というような時間の割り振りは、どうやって決めるのですか?

作家さんから送られてきた各曲の編成表をもとに、大きな編成から小さな編成までを順番に並べていきます。このとき、人数の多い弦やブラスが優先となります。で、その作業をすれば、各セクションの押さえ時間が自ずと出てくるようになってます。

でも、たまに計算ミスをして、ミュージシャンの方たちに「たったこれだけの時間で、これだけの曲をやれってか〜?」みたいなプレッシャーを与えてしまいますが…(^^;

こうして出来上がった実際の編成表と、それを作るに至った計算用紙(?)をお借りすることができました。できるだけ細部まで見ていただきたいと思って大きいサイズでアップしたのと、スキャナではなくデジカメで撮った画像ということでお見苦しい部分もあるかと思いますが、とても貴重な資料なので是非ご覧ください♪ → 

 

おっちゃんがよく「今日は押したから、インペク屋さんは大変だっただろうな…」なんてことを言いますが、どういったことが大変なんでしょうか?

来ていただいたミュージシャンの方が次のお仕事を抱えていた場合には、作家さんに「○○さんは○時までです」とお伝えしたり、そのミュージシャンの方に、次のお仕事が終わったあと、また戻ってきていただくことができるか…とか、後日また来ていただくことができるか…などを話し合って色んな手配をするので、にわかに慌しくなるのです。

 

もし、予定していたミュージシャンの方が、前のお仕事が押したり、事故や渋滞で遅刻するという連絡が入ったときはどうするんですか?

私はまだそうした経験がないのですが、フルオケでの録音で重要なパートの方が遅れてしまったら…と考えると、インペク的には真っ青ですね。でもそうした場合は、遅れてくる方のパートがない曲から録る…つまり、録音の順番を変えることで対応することになると思います。

 

もし、急病などで急に「仕事に来られない(穴を開ける)」ような事態が発生したら…?

こちらも、まだそういった現場に遭遇したことはないのですが、そのときは作家さんや音楽製作サイドと相談して、録音そのものを延期するか、急きょ別の方に来ていただくかを決めて、対応すると思います。

でも、ミュージシャンの皆さんは、本当に辛い体調の中でも、無理を押して来て下さるんですよ。以前、ものすごい高熱なのに「まだインフルエンザと診断されたワケじゃないから…」と言って、来てくださった方がいました。その方には、演奏の直前までスタジオのソファーで横になっていただき、その間に私は近くのコンビニでお粥や栄養ドリンクを買ってきて看病…!ということもありました。

後日、インフルエンザではなかったことが分かって現場にいた全員がホッとしたのですが、熱を押して来ていただいたその方に感謝の気持ちでいっぱいですし、体調の悪さを思わせない素晴らしい演奏にプロ根性を目の当たりにし、とても感動しました。

 

普段の生活の中で「これはインペクとしての職業病だなあ」と思うことはありますか?

音楽番組を見ているとき、ついメインで歌っているアーティストさんよりも、その後ろを見てしまうことでしょうか…そして知っているミュージシャンを発見して喜んでしまいます(笑)

また、CDを買ったときに、まず最初にブックレットの中のミュージシャンクレジットに目が行ってしまうことですね(^^;

 

インペク屋さんになるためには、どういう要素が必要ですか?
楽譜が読めた方がいいとか、何か楽器が演奏できた方がいいってことはありますか?

音楽的知識としては、楽器の名前を知っていれば大丈夫です。たとえば「ホルンって、どんな楽器だっけ? ファゴット?…何それ?」では困るよ…という程度です。

また、 譜面が読めたり、楽器が演奏できる必要もありません。でも、作家さんの書き下ろしの楽譜なんかを手に取って見ることができるので、楽譜が読めるとお得ということはあるかもしれませんね(^^ゞ

音楽を聴くのが大好きで、ミュージシャンが大好きで、裏方仕事に生き甲斐を感じられて、人とお話するのが大好きで、ちょっとだけ図太い神経の持ち主なら、かなり向いているお仕事だと思います♪

 

最後に、インペク屋さんの仕事をしていて思うことや今後の抱負なんかがあれば聞かせてください♪

今まではいち視聴者として聴いていたテレビから聴こえる音楽が、実際にはこんなにたくさんの人の手によって作られているのだということを知る事ができて、ますますこの世界に興味が湧いているところです。

それに素晴らしいミュージシャンの方たちの録音以外のライブにも足を運ぶようになったり、この仕事がきっかけでとっても世界が広がりました。仕事なのに素晴らしい音楽が聴けて、素敵なミュージシャンのみなさんにお会い出来ればもう日頃の疲れも吹っ飛んでしまいます。

とはいえ、現場が数日続くと体力的にはやはりキツいものがありますので、日頃からしっかり自分の体調管理が出来るよう、みなさんにご迷惑をおかけしないよう、これからも頑張っていきたいと思っています。

 

 

いかがでしたか?

いつも「おっちゃんの仕事場探検」で色んな録音現場をご紹介して「1つの音楽が出来上がるのには、作曲家さんだけでなく、これだけの演奏家さんやエンジニアさんが頑張ってるんだよ〜!」なんてお話をさせていただいてますが、さらにその陰ではこんな縁の下の力持ちさんがいらっしゃったんですね〜。

今回ご協力いただいたインペク屋さんも、別項の「コンサートマスターのお仕事 Q&A」のときのマサさんのように優しく丁寧に対応してくださって、ほんとに感謝しています(*^-^*)

 

 

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